『誕生日12月20日』一護サイド

『お前いくつになったんだ?』
『さぁ……』

一応聞いてみたものの、返事は予想通りあっけないものだった。
死神っていったいどれくらい長く存在しているもんなんだろうか…。
目の前の、どう見ても子供にしか見えない死神も、オレと比べたら、遥かに長い長い時を過ごしているのだと思うと、すごく不思議な生き物に見えてきた。
そうでなくても、輝くような銀髪や、美しい翡翠のような瞳のおかげで、たまに本気で『妖精じゃなかろうか』と思ってしまうくらいなのに。

そして今日は妖精さんにしては行儀が悪く、口も悪い我が儘奔放なオレの大切な恋人の誕生日。
冬獅郎には黙って、隠れて日払いのアルバイトなんかをしてみたり、やり飽きたゲームを売ったりしてかき集めた金で、プレゼントとケーキを買った。
誕生日なんだからと、いつも冬獅郎に食わせているケーキ屋のケーキではなく、いわゆるデパ地下まで行ってフルーツまみれで生地の全く見えないような、近所のケーキ屋の3倍はする値段のケーキ。
夕方のデパートで、セレブかぶれのおばさん達を押しのけて、冬獅郎との約束の時間ぎりぎりで買ってきた

少し多めにドライアイスを入れてもらって、一秒でも早くとオレの部屋に来ているはずの冬獅郎の元へ急いだ。
約束の時間に少し遅れてしまったが、冬獅郎は怒るでもなく待っていてくれたようだった。
少し恥ずかしそうなのが伝わってきて、とんでもなく愛しい。
早速、用意していた紅茶を煎れている横で、冬獅郎はオレの横においてある大きなケーキの箱が気になって仕方ないようで、ちらちらと視線が動いている。

『冬獅郎!お前が開けろよ』
『え…いーよ…一護が開ければ…』
『ばぁか、お前の誕生日だろ?お前が開けろって!』
『…うん』

冬獅郎は仕方ねぇな…とつぶやきながら、ゆっくりした動作で箱に手をかけてリボンをほどいているが、顔には『早く食べたい』と書かれていて、思わずオレは吹き出しそうになってしまう。
ここで機嫌を損ねる訳にはいかないので、ぐっとこらえたが。
箱を開けてフルーツがたくさん乗ったケーキを目にした時の冬獅郎は、目がキラキラ輝いて、ちいさな口の端から今にもよだれが垂れそうで……ケーキを今すぐ食べたいと思っているであろう冬獅郎……をオレがいただきたい。
しばらくケーキを眺めていた冬獅郎が、ぱっと顔を上げて、珍しくねだるような視線を向けてきた。
ヤバいくらいかわいい。

『なー早く切ってくれよ!』
『ばーか!全部お前が食っていいんだよ!このままいっちゃえ』
『マジで?いーのか?』
『もちろん』

目をまんまるに見開いて、確認してくる冬獅郎は普段のクールさがどこかへ吹き飛んでしまったようで、すっかりただの子供みたいになってしまっている。

『あ、そーだ、冬獅郎ちょっと待てよ!』
『あ?』
『そういえばお前…』

箱の中には細長いローソクが入れてあって、せっかくなので使うことにし、食べる前に誕生日らしくローソクを立ててやろうと思って聞いた台詞が一番最初の会話になる。

 

結局本人も分からないようなので、オレの独断で10本立てようとしたら1本折れたから9本になってしまった。
最後の一本を指した場所が悪かった。
さすがにリンゴには刺さらなかった……。

『9歳でいっかw』
『ばか!んな訳あるかよ!』

からかいながらフォークを持たせてやると、ざくっといきなり真ん中に積み上げられた苺にフォークを突き刺す冬獅郎……ちょっと凹んだ。
何もそんなに力一杯刺さなくても…。
でも口いっぱいに入れた苺の果汁を、口から溢れさせながらおいしそうに食べる顔は可愛くて素直に嬉しい。
ただ、苺の汁を手で拭っている様なんかをじっと見てしまうと、その口元から目が離せなくなったりしてしまって、はっとしてオレは目をそらした。
ごくんとイチゴを飲み込んだ冬獅郎が、目線をそらしているオレに、

『いちご!お前食わねぇのか?』

と少し首をかしげながら聞いてくる。
おそろしく可愛い自分に気づいていないあたりタチが悪い。
いや、食べたい。
ケーキじゃなくて……。
なんて言ったらぶっ飛ばされそうなので、平静を装ってオレもトレーに乗せていたもう一本のフォークに手をのばしながら答える。

『あぁ じゃぁオレも少しもらうよ』

しかし、次の瞬間あり得ないことが目の前に起こった。

『ほら』

といってフォークに乗せられるだけ色んなフルーツを乗せて、オレの口元へ向かって冬獅郎の腕が伸びてきた。

いつもは絶対にしてくれない『あーん』だ。
いや、してくれと言ったことも別にないが。
あまりにいつもの冬獅郎からはかけ離れた行動にオレの動きは一瞬止まった。

『冬獅郎…』
『な…なんだよ!いらねぇのかよ!』
『いや!食う食う!』
『ほら早く!』

早く食えとフォークを押し付けてくる冬獅郎を見つめながら、大きく口を開けてケーキを頬張る。
とても高級な味がした。
それ以上に甘酸っぱい何かが口の中に広がったような感じがした。
そして、オレがケーキを食った瞬間冬獅郎の頬が少し赤くなったのは気のせいだろうか。
すぐに下を向いてしまったので、よくわからなかったが、多分照れてくれているのだろう。

『うまい!』

そういって笑顔を向けてやると、少し恥ずかしそうに上目遣いになった冬獅郎が
もう一回ケーキを差し出してくる。
そして、目をそらしながら、ぶっきらぼうに言う。

『オレ…こんなに食えねぇし……』

言い訳みたいに言ってますます赤くなっている。

いつもオレが食わせてやったり、というか冬獅郎の世話ばっかりしているので、逆の立場になり冬獅郎の少しうろたえている姿が可愛い。

ほっぺについたままのカスタードクリームもかわいい。
ぎゅうっとフォークを握りしめた手もかわいい。
困ったような顔もとんでもなくかわいくて。

気がついたらフォークを持った冬獅郎の手首をつかみ、引き寄せてほっぺのクリームを舐めていた。

『ちょ!なにすんだよ!』
『なにって、クリームつけっぱだったから、綺麗にしてやったんじゃん』
『なっ!ばか!』

悪びれずに言ってやると、ますます顔を真っ赤にした冬獅郎が、目をまんまるくして手を振りほどこうとする。
急に腕を惹いた弾みで冬獅郎が持っていたフォークに刺さっていたクリームまみれのフルーツが冬獅郎の半ズボンから伸びたふとももにべったりとついてしまった。

『うわ!』
『あーあ…だめじゃん冬獅郎!もったいねーって…』

いいながら、オレは冬獅郎のふとももに落ちた桃をつまんで自分の口に放り込んだ。
ついでにクリームも指ですくって舐めた。

『ばか!やめろって!……もういい!もういらない!風呂入る!』
『ええーせっかく買ったのにー、ちゃんと全部食ってくれよー』
『うるさい!……わ、わかった…食うよ…』

オレが少しすねてみせると、いつもなら絶対に折れてくれない冬獅郎が、すんなり言うことを聞いてくれた。
オレが頑張って買ったケーキだからなのか、ただ単にケーキが食べたいだけなのか…。
あまりスキンシップに慣れていない冬獅郎は、少し触れただけで大げさに反応する。
それでびっくりしてしまった自分が恥ずかしかっただけかもしれない。

おとなしくなってケーキをもくもくと食べる冬獅郎だったが、少し沈黙した後、今度は落ちないようにフォークにしっかりとリンゴを刺して、オレの口にすごい勢いで突っ込んだ。

『んがっ』

大きくカットされたリンゴは、結構な衝撃だ。
なんとか全部口に入れようともがくオレの顔に、またしてもすごい勢いで今度は冬獅郎の真っ赤になった顔が近づいてきた。
そして、オレがくわえたまま少しだけ口の外に出てしまっているリンゴをかじった。
ほんのちょっとだけかすった冬獅郎の唇。
オレはリンゴとの格闘を放棄して、ぼーっと冬獅郎を見つめてしまった。
そんなオレの視線に耐えかねたのか、冬獅郎がリンゴを飲み込んで口を開く。

『リンゴ…それが最後だったから…食いたかっただけだ!』

と言い放って、ケーキの残りに手を付ける。
あとはケーキを食べ終わるまで、何もしゃべらなかった。
オレはまだ半分ほどあるケーキの上に乗ったいくつかのリンゴには気づかないふりをして、紅茶をすすった。

きれいになった皿の上には9本のローソクだけが残された。
満腹になった冬獅郎は『ふぅっ』と可愛らしくため息をつき、風呂に入りたいとせがんでくる。
今日は本当によく甘えてくれる。
全くもって嬉しいかぎりだ。
あとはケーキを食う前に渡したプレゼントを冬獅郎がいつも着けていてくれれば文句はない。

二つあわせるとハート形になるペアのペンダント。
何日も前から悩んでやっと決めたプレゼントだった。
目立たないように色はシルバーにして、大きさも小さめのものにした。
渡したとき、冬獅郎はちゃんと着けてくれると約束してくれた。

二つくっつけてハートになるってのはまだ本人には伝えてないが(伝えたら着けてくれなそうだったから)そのうちこの秘密を教えてやろうと思っていた。
だが、風呂上がりに早速見つけられてしまって、というか、隠し忘れたオレの失態なんだけど…。
オレとペアのペンダントを見つめて固まっていた冬獅郎を見て、気に入らなかったかな…と少し心配になったが、そうではなく、嬉しいと思ってくれたようでオレは心底ほっとした。
風呂上がりにいれてきたココアのマグカップを机に置いて、オレは冬獅郎の顔を覗きこんだ。
そして改めて祝いの言葉を紡ぐ。

『冬獅郎、誕生日おめでとう』

何歳になったのかは知らないけど。
とにかくおめでとうと伝えたかった。

次の瞬間冬獅郎の小さな体がオレの胸に飛び込んできて、あまりの勢いにオレは一瞬バランスを崩しそうになったが、軽い冬獅郎の体はすぐに腕の中におさめることができた。
そんな愛しくて仕方ない恋人に、オレは何度も何度もあちこちにキスをした。
そのうちにおずおずとオレの背中に冬獅郎の腕が回ってきて、ぎゅっと力が込められた。

(このまま時間が止まったらいいのにな…)

自分でも頭がおかしいことを考えながら、オレはゆっくり冬獅郎の唇にキスをした。