『カカオアレルギー1』(一護、高校生。冬獅郎、小学校低学年)

冬になると日本中のお菓子メーカーが、こぞって新商品を出してくる。
ほとんどがチョコレート。
コンビニやスーパーやデパートにこれでもかと『新商品』と貼られたチョコたちが並ぶ。
チョコが大好きなオレにとっては、ただ『チョコが食べたい』と思ってコンビニに言ったが最後、あまりの数に決められずにいつもの板チョコやアーモンド入りのチョコを選んでしまう。
オレですらそんなふうになってしまうのに、先程からオレの足下にしゃがんでうんうん唸っているこの子供が、目の前の美味しそうなパッケージのチョコレート達のなかからさっさと一つを選ぶなんて思ってはいなかったが…。

『なー 冬獅郎 早く決めろよ…』
『…うん…』

オレと冬獅郎がいるのは近所のコンビニ。
そしてコンビニの棚に所狭しと並べられたチョコレート。
棚が一つまるまる新商品のチョコで埋め尽くされている、その前でもうかれこれ10分にはなるだろうか…。

オレが冬休みなので、施設暮らしでいつも寂しい思いをしている冬獅郎を、黒崎家に連れてきて、冬休みの間預かることにした。
始めはオレと一緒にいられることを喜んだ冬獅郎だったが、オレの家族もずっと一緒となると、少し複雑なようだ。

オレの家に住み始めて10日ほど経った。
だが未だにオレの家族と共に生活するのには慣れないようだ。
もともとよく遊びにきていたし、風邪を引きやすい冬獅郎は病院である黒崎家に出入りすることが多かったので少しすれば、子供だしすぐに慣れるだろうと思っていたのだが…。
冬獅郎は人見知りで、たくさんの人数で食事をするのなんてとんでもなく苦手だ。(施設ではいつも隅っこで一人で食べていた)
よって、オレの家族と同じ食卓を囲むのにまだ慣れず、食事はいつも緊張してしまうようで、少ししか食べられないのだ。
ただ、オレと二人になると、良く食べるし、更におやつをあれもこれもと欲しがってくる。
本当は思い切り食べたいのだろうが、あいつの性格ではまだまだ遠い話だ。

小さくて細っこい冬獅郎なので、食事はちゃんと取らせたいが、ムリに食べさせるのも可愛そうだと過保護なことを考えてしまう。
良くないとはわかっていても、箸えを止めた冬獅郎に『残すな、食え』とは言えなくて…。
でも、これ以上痩せられたりしたら困るので、冬休みだけと決めて欲しがるおやつは出来るだけ買ってあげようと思っていた。
わざわざ施設から連れ出しておいて、栄養失調だなんて笑えない。
まぁ…お菓子で栄養補給になるかはまた別だが…。
オレが与えたお菓子を嬉しそうに食べる冬獅郎を見ていると、オレまで嬉しくなってしまい、ついつい与えすぎてしまうオレもおれだが…。

そして今日も昼ご飯を早々に切り上げた冬獅郎は、夕方前に空腹を訴えてきた。

『いちご…はらへった…こないだのお菓子くいたい…』
『こないだの…?あれはもう無いって…全部食ったじゃん』
『ちぇ…』
『ったく…』

夕食まで我慢しろと言おうとしたが、遊子が今日の晩ご飯は鍋だと言っていたのを思い出した。
そんな家族団らんの典型なメニューを出されては、また冬獅郎がほとんど食べないのは目に見えた。
なので仕方ないと思いつつ、冬獅郎を連れて近所のコンビニへ連れてきたというわけだ。

(オレと二人だとあんなに食うのになー…どんだけ人見知りっつーかなんつーか……)

夕食までの時間もあまりないこともあって、『一つだけだぞ』と言って選ばせているのだが、やはりあまりの数になかなか決まらないようだ。
そりゃそうだ…こんだけあればな…。
冬獅郎は真剣な顔で、ひとつひとつ手に取りながらパッケージを見比べ、棚に戻したりまた出したりしている。
こんなに冬獅郎が悩んでいるのにも実は訳があった。

普段おやつと言えば、冬獅郎が大好きなドーナツやプリンだったのだが、コンビニにはいった瞬間目に飛び込んできた新商品というポップに惹かれたオレが、冬獅郎にチョコを勧めてみた。
チョコレートならば、あまり腹にも溜まらず、空腹は満たされると思ったからだ。

『冬獅郎?チョコは?』

と聞いてみたら、

『あんまり食べたことない』

と答えた冬獅郎。

『お前好きそうなのに…』

施設ではおやつがない生活をしているので、あまり食べる機会がないのかも知れないなと思いつつ、二つのチョコレートの箱を持ってどちらにしようか迷っているらしい寄せられた眉を見ていると、ふと冬獅郎がつぶやいた。

『なんか変になるから…でも味は好きなんだ…』

とおかしなことを言い出した。

『なんだそりゃ?』
『コレにする!』

何が変になるんだ?と首を傾げるオレを他所に、やっと決めることの出来たらしいチョコレートを片手に冬獅郎が立ち上がる。
ようやく決めたチョコレートはイチゴチョコとミルクチョコがマーブル状になったもので、一口サイズで一つ一つ包装されている。
これならば一気に食ってしまうこともないだろう。
個別包装されていないビスケットなんて預けた日には、冬獅郎は目を離した隙に全部食ってしまう。

『よし じゃあ買ってくるから』
『…ん』

オレはついでに自分のガムも選んで、レジで会計を済ませた。
入り口付近で待っていた冬獅郎に、手に下げた袋を少し上に掲げるようにして見せてやる。
少し顔を輝かせた冬獅郎が可愛い。
冬獅郎の横に並んで歩き出すと、早くよこせと言わんばかりに小さな手が袋にのびてきて、オレは持っていた袋を冬獅郎が届かない高さまであげた。

『家に帰ってからだ!』
『ちぇ…』

行儀の悪いことをしようとする子供を牽制しながらも、早く食べたくてうずうずしているらしい様子が可愛らしくて、オレは冬獅郎の手を引いて少し早足で自宅に向かった。

家に着き、部屋に入ると、目をキラキラさせてオレを見上げてくる冬獅郎へ、早速チョコの包みを開けて一つ渡してやる。
小さな手で受け取った冬獅郎は、アルミの包装ををもどかしげに開け、ポンっと口に放り込んだ。

『うま……』
『よかったな。じゃ、オレも食おう』

しばらく口の中で溶けるチョコレートを楽しんだ冬獅郎が、嬉しそうに微笑んで旨いというので、夕食まで何も食う気がなかったオレも一つ食べてみたくなった。
新発売とでかでかと書かれていたパッケージを見ながら、結構うまそうじゃんなどと思いながら、冬獅郎にもう一つやろうかと箱を開けた時だった。