『カカオアレルギー2』

『くしゅっ…』

いきなり冬獅郎が小さくくしゃみをした。
外に行くのにきちんと上着は着せたし、この部屋だって寒くはない。
家を出る前からつけっぱなしにしていたエアコンで十分に暖まっている。

『ふわぁ……ふ…くしゅん!』

続けてまたまた可愛らしくくしゃみ。

『おい どうしたよ?まさか風邪か?』
『ちが…へーき』
『誰か噂でもしてんじゃんか?』
『なんだよそれ…』

鼻をぐずぐずさせている冬獅郎を見ながら、オレチョコを一つ口へ放り込んだ。
イチゴの香りがふわりと広がって、なかなか美味しいチョコレートだった。

『お!うめぇじゃんコレ』
『いちご!オレももっと!』
『お、あぁ…ほら』

せがむ冬獅郎にもう一つチョコレートを渡してやる。
冬獅郎はまたすぐに二つ目も食べてしまう。
そのがっつきぶりにオレは思わず苦笑してしまう。

『くしゅっ…うぇ……へ……っくしゅ!』
『おい…大丈夫か?』

またしてもくしゃみを連発する冬獅郎に、オレはさすがにおかしいなと思い、風邪でもひいたかと心配になって、冬獅郎の額に手を当ててみた。
鼻は相変わらずぐすぐすしているが、熱などはないようだし、この通り食欲もある。

『熱はないみてえだな…苦しいとか、寒いとかないか?』
『ない!へーき……くしゃみだけ』
『ふー…ん』
『いちご、これうまいな…なぁもう一個食っていいか?』
『あ、ああ…もう一個だけな?』

少しだけ涙目な冬獅郎を、変だなと思いつつ、差し出された手のひらにチョコレートを渡してやった。
冬獅郎は今度は一口では食べず、少しだけチョコレートをかじり、じっと何かを考えている。

『どした?なんか入ってたとか?』
『ちがう…いちご…なんかコレ食うとむずむずする…』
『は?なんだそりゃ?』
『チョコ!チョコ食うとくしゃみが出るんだ』

何をしているのかと思い、聞いてみると
食べかけのチョコをずいっとイチゴの顔の前に突きつけ、『チョコを食うとくしゃみがでる』と主張する冬獅郎。
冬獅郎は真剣に言っているようだ。

『まじかよ…なんだよ…そんなんあるわけ…』

言いかけたオレは、ふとあることを思いつき、言葉を止めた。
確か冷蔵庫にまだあったはず…。

『ちょっと待ってろ冬獅郎!』
『!なんだよ!いちご!』

オレは部屋を飛び出し、一階のキッチンへむかった。

 

一護が部屋を出て行って、一人取り残されたオレ。

『なんだよ…変なやつ…』

人がせっかくくしゃみの原因がわかったと思って教えてやったのに。
一口かじっただけで持っていた、少し自分の体温で溶けかけたチョコ思い切って口にいれた。

『…ん…』

鼻がむずむずするのを我慢して、なんとか飲み込んだ。
チョコレートの味はとっても大好きなのに、なぜか食べるとくしゃみがでてしまうようで、オレはチョコのパッケージをひっくり返したりしてなんかわからないかと色々見てみた。
だが聞いたことも無い言葉がたくさん並んでいるだけでよくわからなかったので、箱を床に放り出し、ついでに足も投げ出して一護を待った。

『冬獅郎!』
『……いちご』

慌てた様子の一護にオレはちょっとびっくりしてたが、一護が何か持っているのに気づいた。

『ちょっとコレ食ってみろ!』
『なんだよ…』
『いいから!』

一護が差し出したのは、今まで食べていたチョコレートと似たような包装。
なんでまたチョコを持ってきたのかと不思議に思って一護に聞いてみた。

『これチョコ?』
『あぁ…ホワイトチョコだ』

言われて開けてみると、包装紙の中身は真っ白なチョコレートだった。
オレはそれをしばらく眺めて、ぽいっと口に放り込んだ。
しばらく溶かして、飲み込んだ。
あれ…むずむずしないな…と思った。

『……』
『どうだ?むずむずするか?くしゃみは?』
『…しない…でない…』
『やっぱし……』
『?』
『カカオアレルギーだ!』
『かか…お?』

聞いたこと無いようなカタカナを並べられて、オレの頭の上に『?』が浮かんだ。

 

オレの渡したホワイトチョコを食った冬獅郎はやはりくしゃみが出なかった。
そして、くしゃみの原因を教えてやったところ、冬獅郎の頭の上にはたくさんの『?』が浮かんでいた。
それはそうだろう、普段はあまり聞かない言葉だ。
オレだてよくは知らないが、なんかのテレビだか雑誌だかで見た気がする。

『フツーのチョコにはカカオってのが入ってんだよ…それをアレルギーのやつが
食うと、鼻がむずむずしたりくしゃみがでたりすんだ』
『なんだよそれ…よくわかんねぇ…』
『アレルギー!お前はチョコに入ってるカカオに…なんだかよくわかんねーけど
なんか反応してくしゃみが出んだよ!』
『そうなのか?おれカカオってのくっちゃいけねーのか?』
『食っちゃだめな訳じゃねーけど…でもくしゃみ出んぜ?』
『…そーなのか…』

とにかくカカオのせいでくしゃみが出ると聞かされて、とでもがっかりしたように肩を落とす冬獅郎。
なんだか少し可哀想だった。
ちらりとさっきコンビニで買ったチョコのパッケージを見ながら小さくため息なんかをついている。

『うまいのに…』
『しかたねえよ…でも黒いチョコじゃなければへーきだぞ?』
『そうなのか?』
『さっきホワイトチョコ食って何ともなかったろ?』
『なんともなかった』
『な?白いやつとかイチゴ味だけのやつとかなら全然へーきだ』
『そっか…』

すこし冬獅郎の顔が明るくなった。
オレはほっとして、更に続けた。

『まぁ大人になれば治るかもしんねーし、別に食っても死ぬ訳じゃねーから、くしゃみ我慢すれば食えるだろ』
『うん…』

多少残念そうではあるが、死ぬ訳じゃないと言われて冬獅郎もほっとしたようだ。
オレは柔らかい銀髪の頭をくしゃりと撫でて笑いかけてやった。
冬獅郎はオレを見上げて少し微笑んだあと、床に投げてあるチョコレートの箱を掴みあげて、オレに手渡した。

『じゃあコレ…あとはいちごが食えよ…』
『そうだな…また明日お前がくしゃみしなくてすむやつ買おうな』
『うん』
『もうすぐ飯だぞ 今日はたくさん食えよ?』
『…ん』

お腹が空いているので、ご飯と言われて嬉しそうな、ちょっと困ったような複雑な顔をする冬獅郎。
そんな冬獅郎に苦笑しつつ、チョコの食べかけを片付けたオレは、夕食のコールがかかるまで二人でおとなしく待つことにする
そろそろ2階の部屋までいいにおいがしてきているので、間もなく遊子の元気な声で呼ばれるだろう。

オレははベッドに腰掛けて冬獅郎に呼びかけた。

『冬獅郎 おいで』
『……なんだよ』
『いいから』

手を広げて待っていると、じっとオレの手を見つめていた冬獅郎が、ゆっくり立ち上がってとてとてとベッド脇まで寄ってくる。
そのまま立ち尽くしている冬獅郎の手を引っ張って、オレは自分の膝の上に乗せる、そして自分の胸に冬獅郎の頭を抱えるようにして抱きしめた。

『だーいじょうぶだ!きっと治って嫌ってほどチョコ食えるようになるって!』
『…ほんとか?』
『ほんとだって!』
『うん…』

冬獅郎の小さな頭を抱えたまま、なんの根拠もなかったが、オレは冬獅郎に悲しい顔はしてほしくなくて、励ますように言った。
小さい冬獅郎には結構ショッキングな出来事だったらしく、傍目にみても元気のなくなった冬獅郎の頭を何度もなでてやる。
オレの言葉に小さな声で返してくれるが、やはりショックは大きいようだ。
小さくて柔らかい頬を両手で挟み込むようにして、オレは冬獅郎の顔を覗き込んだ。

『他にも好きなもんいっぱいあるだろ?な?』
『うん』

思いっきり笑いかけてやると、冬獅郎も弱々しい笑顔で返してくれた。
そのとき一階から夕食を知らせる遊子の元気な声。

『おにぃちゃん!冬獅郎くん!ごはんだよ!』

オレは冬獅郎を離してやり、今度は背中に手を添えて部屋を出るよう促す。

『お!出来たらしいぞ!』
『あ…うん』

やはり複雑そうな表情をする冬獅郎。

『アレルギー治したいんだったら、飯たっくさん食わねぇとだぞ?』
『メシたくさんくえば治るのか?ほんとか?』
『ああ!飯食ってたくさん寝て、たくさん遊べば健康になるって!』
『お…おぅ…』

じっと一護の顔を見ながら、まじめに頷く冬獅郎。
そんな姿が愛らしい。
思わず抱きしめたくなる衝動を押さえながら、オレはもう一度冬獅郎の背中を押した。

『とにかく飯だ!』
『うん、じゃあオレたくさん食う…』
『あぁ!その調子だ!』

にこりと笑いかけてやると冬獅郎は少し嬉しそうにはにかむ。

これで少しは飯を食えるようになるかな?
だったらアレルギーも良かったってことになるのか?
…つーかこいつ他にもアレルギーとかすっげえありそうだな…
今度まとめて調べてもらうか…

オレはため息をつきながら、冬獅郎を連れて夕食の用意されたリビングへと入る。

あったかい部屋にあったかい鍋がぐつぐつ音を立てていて、オレの腹が空腹を主張するように鳴った。
冬獅郎も鍋が珍しいのか、興味深げに食卓を覗き込んでいる。

『さぁたっくさん食べてね!』

遊子の元気なかけ声で黒崎家の大晦日イブの夕食が始まる。

オレの横に座り、取り分けてやった野菜や魚を、一生懸命ふーふーと冷ましながら食べる冬獅郎に目を細めながら、オレも自分の食欲を満たす為に箸を構えた。