『不満と戸惑い1』

 

『なぁ…お前なんでいっつもそんなにしかめっ面なわけ?たまには…ってか、オレとデートしてる時くらい、もーちょっと可愛くなれねーの?』
『は?』
『せっかくオレが冬獅郎とデートしてんのに、そんな顔ばっかじゃなんかオレ、自信なくすし…つまんねーのかとか…なんか…』
『いや…ていうか、普通なんだけど…』
『じゃあ、オレといてお前はなんでふつーなわけ?オレなんかさ、冬獅郎と一緒にデートしてんのなんて、嬉しくて死んじまいそーなんだぜ?お前は嬉しくねーのかよ?』
『…そーゆー訳じゃ…』

一護の家でいつものように休日を過ごしていたオレ。
出かけるでもなく、ただぼーっとしているだけの一日。
こんな休日もたまにはありかな、と思いながら普段の仕事で疲れた体を休めていた。
同じ部屋に居るだけで、一護と話をするでもなく、本を読んだりかるくうとうとしたりしていた。
夕方になり、そろそろ腹の虫も騒いできたところで、外で晩飯を食べようと一護が言い出した。
オレは断る理由も無いので、その意見に賛成して大人しくついてきてやったのだが、家を出て歩き始めたところで、突然一護がオレが無愛想なことに不満を言い出した。
しかめっ面といわれても、普段からこんな顔をしているはずだし、一護と一緒にいるのは…それは…まぁ嬉しいといえば嬉しいが、恥ずかしくてそんなこといえる訳がない…のは一護も知っていると思う…のだが…。
オレが一緒にいるというだけでは満足出来ないのだろうか…?
自信なくすだなんて、大げさに言いやがって…。

『嬉しいんだったら、素直にもっと笑ったり、甘えたりしてくれりゃいいのに…』

まだぶつぶつ言いながらオレの方を伺ってくるが、オレは一護の方は見ずに、黙って歩き続けた。
一日中一緒にいるのだから、それだけで満足ではないのだろうか?
大体、甘えると言っても具体的にどうしたらいいのか…分かるような気はするが、やはりそんなことは出来ない。

それからは会話もなく、近くのファミレスだかなんだかというところに着いて、案内された席につく。
注文を終えると、一護が出された水を一気に飲み干し、口を開いた。

『なぁ!冬獅郎!お前オレのことほんとに好きか?』
『嫌い』
『ちょ……っと待て。マジで聞いてんだって!ちゃんと答えろよ…』
『…嫌いだったら一緒にこんなとこに来ねーよ…』
『ほんとにほんとか?』
『るっせぇなぁ…あぁ…ほんとだ』
『だってさ、お前がいつも、あんまりにも素っ気ないから…オレ…本気で嫌われてんじゃねーかって心配になんだよ…』

飲み終えた水の入っていたグラスを脇に避け、一護がテーブルの上で手を組んだ。
視線をテーブルに落とした一護は、しばし口を閉ざす。
オレは、組まれた一護の手を見つめた。
オレは一護の手が好きだ。
温かくて、大きくて、とても優しい手。
恥ずかしいから絶対に口には出さないが、自分でもふと気がつくと一護の手をじっと見ていることがあった。
そんな視線に気づいたわけではないだろうが、一護が顔を上げる。
オレは慌てて視線をそらし、水の入ったグラスに手を伸ばした。
一護がまっすぐにオレの顔を見ているのがわかる。
飲もうとしていたグラスを持ち上げたところで、一護の真剣な目に少なからず動揺し、水を飲む気にもなれなくてそのままグラスを置いた。
その動作を目で追っていた一護が口を開く。

『お前がすっげー大人なのはわかるけどさ、オレとしてはもっと甘えたりしてほしいわけ。どっか行きたいとか、なんかしてほしいとか…』
『…別に…ねーけど…』
『マジで言ってんの?』
『……』

だって、いつもオレがしてほしいことは、オレが言葉にする前に一護がしてくれる。
オレのあまり知らない現世で、いろんな所に連れて行ってくれる。
どれもされて嬉しい事だったし、行く先々でもとても楽しかった。
だからオレは内心とても満足していたし、別に何も言う必要は無いと思っていた。
だが、そうではないらしい。

『じゃ、今さ、お前なんか欲しいもんねーのか?』
『…別にない…強いて言えばメシ』
『じゃあ行きたいところは?明日まで休みだろ?どっか行こうぜ?』
『…別に…』
『ったく…なんかねーのかよ!』

一護は大きくため息をついて、ソファに沈み込んだ。
行きたいところ…なんて…無い訳じゃないけど…。
…遊園地…なんて…恥ずかしくて言えない。
以前、一護に連れられて行った現世の遊園地。
思い出すだけでも恥ずかしい話だが、想像していたよりもすごく楽しくて、平静を装うのにかなり苦労した…。
『楽しかったか?』と一護に問われ、『まーまーな』と答えたオレ…。
素直に楽しかったと言えない自分が少し悔しかったが、どうしても照れてしまって言えない。

またしても訪れた沈黙。
多少居心地の悪くなったこの場の空気を、店員の女性が和ませてくれた。
それぞれが注文した料理を順番に並べてくれる店員。
明るい声がありがたかった。
だが、やるべき事を終えた店員がさっさとその場を去ってしまうと、再び重苦しい空気に包まれる。

『冷めるから、食っちまおうぜ…』

一護の声に促され、二人ともしばらく無言で食べた。
ふと一護の顔を見ると、少しさびしそうに見えた。
急に胸がズキンと痛む。
店内のざわつきが遠のき、一護と自分が出す食器の音だけがやけに大きく聞こえた。
沈んだ一護の表情から目がはなせず、手が止まってしまう。
オレの視線に気づいたのか、顔を上げた一護と目が合った。
だが、すぐに一護は目をオレからそらし、ハンバーグを切り分けている。
更に気まずくなった雰囲気に、何か話をしようかと思ったが、こういう時になんて話を振ればいいかなんて、オレにはさっぱりわからない。
半開きになった自分の口が、なんだか滑稽に思えた。
もくもくと食事を進める一護に、話かけるチャンスも失ったオレは、仕方なくうつむいて、スプーンを動かす。
以前一護に教わって食べて以来、結構気に入っているマカロニっていうのが入ってるグラタンを掬った。
機械的に口に運ぶが、なんだかもう味なんてわからない。
無理矢理口に押し込んで、飲み込むのだけで精一杯だった。