『ごめんなさい』(一護、高校生。日番谷、園児)



『おい!冬獅郎!起きろ!朝だぞ!』

朝日がカーテンの隙間から覗く部屋、大きな声が家全体にに響く。
声の主、一護はカーテンを開けながらベッドですやすやと眠る子供を見下ろす。
急に眩しくなったのが鬱陶しいのか、子供は眉を寄せてころりと寝返りをうつと、
布団に顔を埋めてしまう。

『ほら!起きろったら!一回起こして起きなかったら遊園地行かねえっていったろ!』
『んー…』
『もう知らねえからな!いいんだな!今日は遊園地行かねえからな!』

そう言い放つと、一護はどたどたと足音をたてながら一階のリビングへと階段を降りた。
そのままどっかりと椅子に座ると、用意されていた朝ご飯のトーストにたっぷりとジャムを塗って思い切りかじる。
そして、いつもはミルクだけを入れて飲むコーヒーに、どっさりと砂糖を入れてトーストを胃に流し込んだ。
軽くため息をついて、手にしたトーストに再びかじりついていると、妹がフルーツ入りのヨーグルトを持って来てくれた。

『あれ?おにーちゃん冬獅郎くんは?』
『あいつ、何回も起こしても起きねーから今日は行かない』
『えー…せっかく張り切ってお弁当作ったのに…』
『わりいな…でもあいつさ、たまにはびしっとやってやらないとだめだ!ほんっと甘えてばっかだし…』
『起きたら大騒ぎだなー、いちにいー』
『仕方ねーだろ…。でも甘やかしてばっかじゃだめだからな』
『じゃ、お弁当はお昼に食べてね』
『おう…ごめんな』
『って、いちにい!明日どーせ行くんだろー?まだまだ甘いね』
『え?そうなの?』
『あいつがちゃんと謝ったらな…。遊子、悪いけど材料は買って来るから、また明日弁当頼んでもいいか?』
『うん!もちろん』

相変わらず心優しい遊子に感謝して、一護は朝ご飯を食べ続けた。
さっき勢いで入れてしまった大量の砂糖が甘ったるい。

一護と冬獅郎が昨日した約束。
それは『冬獅郎が朝1回起こしてちゃんと起きたら遊園地に連れて行ってやる』というものだった。
普段なかなか起きない冬獅郎が、今後このままでは心配だと案じた一護が考えた事だ。

だが、単純に一護と遊園地に行けると喜んでいた冬獅郎はそれはそれは興奮してしまい、目をキラキラさせて夜遅くまで起きていた。
いつまでも寝ようとしない冬獅郎に、一護は『明日一回で起きなかったら、遊園地は取りやめ』と念を押したのだが。

『へーきだもん!おれおきるもん!』
『ほんとだな?泣いたってだめだからな!』
『おれなかないもん!』
『よし、約束だ!』
『やくそく!』

なんとかかんとか冬獅郎を寝かせ、一応しっかりと遊園地に行く用意はして寝たのだが、一護は翌朝どうなるか薄々予想はしていた。
ただでさえ冬獅郎はちょっとやそっとじゃ起きないお寝坊さんだ。
普段のお出かけなら、うんうんうなっている冬獅郎を抱き起こして着替えさせて連れて行くのだが、いつまでもこんな調子では先が思いやられる。
一度痛い目をみないとわからないかもしれない…と一護は思い、3連休を利用して1日が潰れてしまっても次の日を保険にして冬獅郎の寝坊を少しでも直す訓練…とういか、少し厳しく言ってやろうと思ったのだった。

約束通り一護は、冬獅郎を一回どころか何回か起こしてみて、すぐに起こすのをやめたのだった。
朝ご飯を食べ終わって、おかわりのコーヒーにミルクを入れて混ぜる。
まだ冬獅郎は起きてこない。

一護は一度部屋に宿題のノートを取りに行ったが、相変わらずお腹を出したまんま大の字で寝る子供は起きる気配もなかった。
軽くため息をついてリビングで宿題をやろうと階段を下りる。
ちゃんと布団はかけ直してやった。

小1時間ほどで出された宿題も終わり、首を回しながら時計を見れば午前10時になったところだ。
喉が渇いた一護が立ち上がろうとしたその時、リビングの外からか細い声で『いちごぉ…』という声とともに、よたよたと歩く足音が聞こえてきた。
一護はそちらを見ないようにして、冷蔵庫に飲み物を取りに向かう。

『いちご…』

リビングへ入ってきた冬獅郎はきょろきょろと部屋を見渡している。
頭は寝癖まみれ。
パジャマはよれよれ。
まぶたは半分しか開いていない。
キッチンに一護の姿をみとめた冬獅郎は、あくびをしながら近づいた。

『いちご…ゆーえんちは?』
『今日は行かないぞ』
『!』

半分しか開いていなかったまぶたを一瞬で全開にした冬獅郎は、今の一護の言葉で一気に目が覚めたようだ。
何度か瞬きをして、一護の元へ駈けて来る。
そして、一護を見上げた冬獅郎は今にも飛びかからんばかりだ。

『なんで!いちご!ゆーえんち!』
『…お前今何時だと思ってるんだ?もう10時すぎちゃってるんだぞ?午前のおやつの時間だぞ?』

時計を指した一護の指を目で追った冬獅郎は、時計はまだよく読めなかった。
だが、時計の針がいつも午前のおやつが出る時と同じところにあったので、何となく時間は認識したようだ。

『あ……』
『お前…おれちゃんと起こしたんだからな?一回起こして起きなかったら今日は遊園地行かないって約束しただろ?』
『……』
『だから今日は行かない』
『……え…』
『せっかく遊子がお弁当まで作ってくれたんだぞ?ちゃんと遊子にも謝るんだ!』
『……なんで?ゆーえんち…』
『だから、だーめ!』
『やだ!やだ!ゆーえんちいくの!いくったらいく!!!』
『もう無理。こんな時間だし。約束だろ』
『いくの!』

冬獅郎はとうとう床に足を投げ出し、暴れ始めた。
両足をじたばたさせ、両手をぶんぶん振り回している。

『うっさいぞ冬獅郎!ほら、起きたんなら顔洗って、歯磨いてこい!』
『やだ!ゆーえんちいく!』
『行かないぞ。いくら暴れたってだめなもんはだめだ』
『いちごのばか!』
『お前が悪いんだから仕方ないだろ?』
『うあぁぁん!』

とうとう大声をあげて冬獅郎は泣き出した。
こうなるともう手が付けられず、しばらくは放っておくしかない。
一護は冷蔵庫から出したジュースを飲みつつ、リビングのソファに座って知らんぷりを決め込んだ。
冬獅郎は、大きな声で泣きながら『いちごのばか!』を連発している。
それでもしばらく知らないふり聞こえないふりをしていたが、だんだん冬獅郎の声が枯れてきて、涙も鼻水もすごいことになってきた。
さすがにそばに行ってやろうかと思ったが、ここは我慢とぐっとこらえて宿題のノートを部屋へ戻しにいった。

部屋へ入り、後ろ手にドアを閉めた一護は、しばらく自室にいることにした。
また下へ降りて、冬獅郎が泣きながら一護へ抱きついて来たらすぐに許してしまうかもしれないと思ったからだ。
自分の弟への愛情は異常だとは常々思っている。
わがままで暴れん坊で泣き虫だが、本当に可愛らしいのだ。

階下ではまだ泣き続けている冬獅郎の声が聞こえていた。
おやじも夏梨も今は出かけているし、遊子には手を出さないように言ってあるからしばらくは一人で反省すればいい。

ベッドに寝転がり、これからどうしようかと考えていると、いつの間には鳴き声がやんでいた。
どうやら冬獅郎はやっと泣くのをやめたようだ。
さすがにここまで放っておかれて、自分のわがままが今回ばかりは通用しないとわかったのだろう。

さて、あいつどうするかな?なんて思いながらも、耳をそばだてて冬獅郎の動きを気にしているあたり、俺もまだまだ甘いのかな…と
ため息をついてしまう一護だった。