<初めてのお年玉1> 

オレ、黒崎一護。
現在高校生。冬休みの宿題を早々に済ませ、迎えた正月をのんびりと過ごしている。
そんなオレの足下で絵本を広げているのが弟の冬獅郎。
この間の誕生日でやっと4つになった、

この日は朝から家族で新年の挨拶をして、おせち料理やお雑煮を楽しんでいた。
妹の遊子がつくる料理はどれも本当に美味しい。
小学生とは思えない腕を毎日振るってくれているので、正月くらいは休ませてやりたいのに本人がつくりたがって、見事な正月料理が出来上がった。

そして食事が終わってからは子供達には嬉しいお年玉タイムだ。
冬獅郎は4つになって初めてお年玉というものを貰う事ができた。
まぁ、それまでは貰ってもよくわからないだろうし、お金よりもお菓子を貰った方が本人も嬉しそうだったし。
冬獅郎は親父から渡されたキャラクターものの小さな紙袋を不思議そうに見ていたが、中を開けてみてお金が入っているのに気づくと困ったようにオレを見上げた。

『いちご…』
『よかったな冬獅郎!お年玉だぞ?お!千円ももらったんか!』
『おかね…』
『なんでも好きなもん買えばいいじゃんか!お菓子でもおもちゃでも』
『う…ん』

現金の使い方がまだわからない冬獅郎。
小さな眉を寄せて、手元の千円札をじっと見つめている。

『おまえ…なんか欲しいもん無いのか?』
『ある!』
『だったらそれ買えばいいじゃないか』
『そうか、いちごといく!』
『いいぞ、じゃあ後で行こうな』

そして冬獅郎は千円札をきちんとたたんで袋に戻した。

どうやら冬獅郎が欲しいのは、テレビCMでやっていたおもちゃらしい。
バイキンマンの喋るおもちゃで、そいつは
「アンパンマンやっつけてやるー」
とか
「バイバイキーン!」
とか、頭をたたくとお決まりのフレーズを喋るというもの。
プラスチックで出来ていて、冬獅郎の頭より大きいサイズ。
もしかしたら、千円では変えないかもしれないが、そこは初売りセールに賭けるしかないだろう。
足りなければオレが負担してやればいい話ではあるが。
オレはオレで、親父からありがたい事にきちんとお年玉を貰う事が出来ていた。
その中から多少出してもかまわない。
ついでに欲しかったCDをごっそり買ってこようと考え、冬獅郎に負けずうきうきして来た。

昼過ぎに早速出かけたオレ達は、まず商店街のおもちゃ屋へと向かった。
さすがに正月初売り。
ものすごい子供の数だった。
正月から働くなんて大変だろうと思うが、この盛況ぶりを見ると店側としてはなんとしても店を開けておきたいだろうと思う。
普段売れないものも、福袋なんて形にしてしまえば飛ぶように売れるのだから。

店のあちこちを走り回っている子供に振り回されている親は既にうんざり顔だ。
大人にとっては正月も大変なものだ。
そして子供達も様々だ。
欲しいものを買ってもらえず大泣きしている子。
買うものも決めず、見本のおもちゃで遊び倒す子。
大きな箱を抱えて嬉しそうな子。

そんな光景をを横目に、オレは冬獅郎が欲しがっているバイキンマンを探し視線をさまよわせた。
棚の一角にアンパンマンコーナーを満つけたオレは冬獅郎の手を引いて、そこへと向う。

『冬獅郎、アンパンマンあったぞ』
『バイキンマンがほしーんだ!』
『あ…そ』

おなじみの丸い顔に黄色のマントのアンパンマンのおもちゃがずらりと並んだ棚に一瞥をくれた冬獅郎。
アンパンマンには興味がないらしく歯がギザギザした黒いというか紫色のバイキンマンを探している。
どうやら男の子はバイキンマンが好きらしい。
オレはどうだったかな。

棚の隅から隅まで探したが、バイキンマンのおもちゃも割とあるものの、探している喋るバイキンマンは見つからない。
棚は所々がごっそり空いているところがあって、もしかしたら売り切れかもしれない。

『ないな…』
『…』
『ちょっと聞いてみよう』

店の人に確認をしたら、やはり売り切れだという答えが返ってきた。
次回入荷は未定とのこと。
どうやらテレビCM効果で人気が高いのか、アンパンマンの敵役だから生産量が少ないのか…。
ま、どちらにしろ今日は諦めるしか無い。
商品がないのだからどうしようもない。

『仕方ないな…今日は帰ろう…』
『やだ!かうんだ!オレのおとしだまでかうんだ!』

始まった。
冬獅郎はその場にしゃがんで動かなくなってしまった。

『そんなことしたって無いもんはないんだよ…』
『やだ!かう!』
『わがまま言うなよ…』
『きょうほしい!いまほしい!』
『…お前…いい加減に…』

さすがに怒りかけたオレだが、冬獅郎のちっちゃな手に握られたポチ袋を見てしまったらその後が続かなかった。
初めて貰ったお年玉。
初めて自分のお金で欲しいものが買える嬉しさ。

オレは初めて自分のお年玉で買ったおもちゃの事を思い出していた。
何を買ったかは忘れてしまったが、レジで母親に抱えられ、店員に自分でお金を渡した時。
おつりと買ったことの証明であるレシートを貰ったとき。
おもちゃの入った紙袋を受け取った時。
昔の嬉しかった出来事の一つ。

そんなことを思い出してしまったものだから、だだをこねる冬獅郎に対して怒るタイミングを失ってしまった。
黙ってしまったオレを冬獅郎が不思議そうに見つめて来る。

『いちご?』
『ああ…なんでもねーよ、じゃあ…もひとつ向こうのおもちゃ屋とかデパート探してみるか?』
『おう!』

すっくと立ち上がった冬獅郎、お年玉を両手でしっかりと持った姿がとても可愛らしい。
落としてなくさないように注意しなくては。

『冬獅郎、それちゃんとバッグにしまうんだ』
『…ん』
『よし』

肩からかけたポシェットにきちんとお年玉をしまい、オレと冬獅郎は店を出た。

次の店で見つかるように祈りながら…。

つづく