『いちごもあーん』(一護、高校生。冬獅郎、園児)



今日からGWだ。
天気予報では晴れる日が続くということだったので、一護と冬獅郎はGW後半にピクニックに行こうと計画を立てていた。
もちろん家族も一緒に、近場で行ける場所を探し前々から準備をしていた。
ところが昨日、一護の普段履いているスニーカーに寿命がきた。
気に入っているあまり履き潰してまったらしい。
ピクニックにはこの靴で行こうと思っていたのに…と一護は心の中で少しだけがっかりした。
他に履くものがない訳ではないのだが、せっかくみんなで出かけるのだから、気に入った思い入れのあるものを身につけて行きたい
と思う。
だが、壊れてしまっては仕方ない。
壊れた靴を持って、ため息とともにゴミ袋に入れていると、後ろでその様子を見ていた冬獅郎がいいこと思いついたとでも言うように
弾んだ声で提案をして来た。

『いちご!きょうさ、くつかいにいこうぜ!このまえ、おれのくつかわなきゃっていちごいったじゃないか。だからいちごのもかおう』
『そう…だな…』

そういえば、この間そろそろ夏物の靴を…と思って去年の夏に履いていた冬獅郎の靴を出したのだが、見た目はそれほどかわった様には
見えないこの子もちゃんと成長しているらしく、靴がすこしきつくなっていた。
夏が来る前には冬獅郎の靴も買わなくてはと思っていた。
そう考えると、今日まとめて買ってしまうのもいい考えに思われる。

『よーし、じゃああそこ行こうか』
『どこだ?』
『ほら、お前の好きな猫がたくさんいるとこ』
『あ!うん!いく!』

あそことは、5つはなれた駅にある大きな商業施設。
たくさんの専門店街があり、遊園スペースや水族館。犬や猫とふれあうことの出来るなんとかワールドとかいう冬獅郎が大好きな施設もある。
レストランやなんかもとても充実している、一日居ても飽きない場所だった。
高校生である一護と、幼稚園児である冬獅郎にはしょっちゅう行ける場所ではないが、映画を見たりするときは少し遠くてもそこまで行くようにしていた。
それほど二人はその場所がお気に入りだった。

そして、一護と冬獅郎は早速準備をし、仲良くお出かけすることとなった。
昼食は必要ない旨を妹に伝え、気持ちのいい風が吹く中、手をつないだ二人は軽い足取りで駅に向かった。

駅に着き、電車を待っている間は、いつも冬獅郎はそわそわしている。
電車に乗るのが楽しみで仕方が無いのだ。電車がホームに滑り込んで来て、ドアが開くと冬獅郎は一目散に走り出す。

『こらこら!危ないぞ!』
『いちご!はやくー!』

興奮気味な冬獅郎を、牽制しながら座席に座らせて、5つ目の駅まで短い電車の旅へ。
窓に張り付いた冬獅郎は、逆方向の電車とすれ違う度に嬉しそうに歓声をあげている。
目的の駅に降り立つと、さすがはGWだ。たくさんの家族連れでにぎわっていた。
逸れない様にしっかりと手をつなぎ、人の波を縫うようにショッピングモールへと向かう。
はじめに冬獅郎と自分の夏用の靴を買って、あとは施設内にある小さな遊園スペースや、猫達と遊ぶつもりだった。
せっかくここまで足をのばしたのだから心行くまで遊んで帰りたい。

二人は意気揚々と靴を買いに向かった。
たくさんの人が居たが、施設内はとてもゆとりをもった空間になっているので、混んでいるようには感じない。
そこも、一護がここを気に入っているところの一つだった。

まずは冬獅郎の靴だ。
冬獅郎の興味があるうちに済ませておかないと、後からでは大変だ。興味をなくしてからではまともに靴を選んではくれないだろう。
ぐるりと靴売り場を見回す。さすがに家族向けを目的に作られた施設だけあって、子供用品も充実している。
何件か周り、冬獅郎には黄色と水色のボーダー柄のスニーカーを買うことにした 。
とてもさわやかな色で、冬獅郎にとても似合う可愛らしい靴だった。

そして、一護はこないだ学校の帰りに、衝動買いしたオレンジのパーカーに合うように、オレンジのラインが入った安いスニーカーに決めた。
値段の割に良い品だったのと、冬獅郎が

『いちごの服とおんなじいろ!』

と嬉しそうに言ったので、それにしたのだ。

良い買い物をした、とほくほくしながら休憩がてらカフェに入ることにした。
靴を選んでいる間も冬獅郎は元気にはしゃぎ回っていて、ここらで少し休憩させないと、昼ご飯の後には夢の世界から帰って来てくれなくなってしまうだろう。
そうなると、猫と遊べなかっただの、ブランコに乗りたかっただのとぎゃあぎゃあ騒がれてしまう。

落ちついた雰囲気の店内は昼前というのもあり空いていて、一護たちは窓際の眺めの良い席へと案内された。
窓の外にはレンガで出来た噴水と、たくさんの花壇が見えて、この季節たくさんの花が咲き乱れ、目を楽しませてくれた。

冬獅郎はあまりこういった店には来たことがないので、少し嬉しそうだった。まあ、一護もそうそう来れるわけではないが。
テーブルに置かれているメニューを二人で真剣に覗き込む。
どうやらこの店はデザートが充実しているようで、写真付きのパフェやケーキのメニューが何ページも続いていた。
冬獅郎はそれらを目を輝かせて見ていたが、なかなか決められないようでページをめくっては戻り、何度も見直して迷っている。その内、ちっちゃな口とポヨポヨの眉がへの字になってきた。

そんな様子をじっと見ていた一護だったが、とりあえず喉が渇いていたので、先にジンジャーエールとリンゴジュースを注文しようと店員を呼んだ。
オーダーしたところで、店員の女性が冬獅郎に話かけた。

『どうしたの?決まらない?じゃあさ、あっちの見本見てみる?』
『!』

突然話しかけられた冬獅郎は、一瞬びくっとして顔を上げた。
店員のお姉さんに、にこにこと見つめられそわそわしている。どうやら、先ほどからの冬獅郎の様子をずっと伺っていたらしい。

『冬獅郎、見せてもらおうか。それじゃお前いつまでたっても決まらないもんな?』
『…うん』

一護も一緒に席を立ち、店員に連れられてガラスケースに飾られた見本のパフェを眺める。
ケーキはショーケースの中の現物を見た。
やはり写真で見るよりもわかりやすい。
その中に、とても可愛らしいパフェを見つけた冬獅郎。先程見たメニューの中には無かったものだ。季節限定ものだろうか。

『これ!これにする!』

と、指差したそれは、かわいらしいウサギののったパフェ。
マカロンやクッキーで作られたピンクのウサギが、イチゴをベースにしたパフェに乗っていて、その他にもたくさんのフルーツがてんこもりだった。
こんなに食えないだろう…と一護は内心思うが、否定してまた一から決め直すのも億劫だ。
しょうがないので、一護は小さなシュークリームをいくつも重ねたプロフィットロールを選び、後は冬獅郎の残りを食べようと決めた。
本当は、たまには心置きなく大好きなチョコレートまみれのパフェをたべたかったのだが…。
またの機会にしようと諦め、ウサギのパフェをキラキラした目で見つめる冬獅郎の頭をぽんぽんと撫でた。

席へ戻り、先に運ばれてきたジュースを飲みながら、次はどこへ行こうかなどと話していると、お待ちかねのパフェが運ばれてきた。

『うわぁ!うさぎ!』
『すげ…うまそーだなぁ』

自分の前に置かれたパフェに、惜しげもなくきらきらした笑顔をむけ、かわいらしい両手でしっかりとテーブルを掴んで、体を乗り出している冬獅郎。
その可愛さに、一護は内心パフェに嫉妬しながらも、今日一番の冬獅郎の笑顔を堪能した。
今にもそのパフェに顔を突っ込みそうな勢いの冬獅郎に、スプーンを持たせてやる。

『ね…いちご!食べてもいい?』
『おう!アイスとけねーうちに食え!』
『うん!』

細長いスプーンをしっかりと握った冬獅郎だったが、ふと何か考えるように動きが止まり、なんといったんスプーンを置いた。

『どした?お前嫌いなもんはいってねーだろ?』

一護は何事かと思い、パフェを見たが、冬獅郎の嫌いなものはこれと言って見当たらないような感じだった。
シュークリームの一つにフォークをぐさりと刺しながら一護はもう一度しげしげとパフェの器を見た。

『うさぎ…ふたっつある』
『ん?あぁ、そうだな』

パフェにはマカロンで作られたウサギが二つ乗っている。
いちご味なのか、ピンクのマカロンだ。

冬獅郎は手を伸ばして、ウサギを一つ引っ掴むと、身を乗り出してウサギを一護の皿にそっと置いた。

『いちごにもあげる。ふたっついるから』

イチゴホイップでべったりの手をひろげたまんま、冬獅郎はにこっと笑った。

『ありがとう冬獅郎。でもいいのか?お前このウサギほしかったんだろ?』
『いーの、いっこはいちごにあげるの。ふたっつあるからはんぶんこなの』
『そっか、半分こだな』
『うん』

そういって、冬獅郎は自分の元に残っているうさぎのマカロンを手に取って一口かじった。

『へへ…うさぎかじった!いたいかな…?』
『痛いんじゃねーの?お前にかまれるといてーからな』

冬獅郎は一護に怒られて、逃げて捕まると一護の腕に噛み付いて暴れる。
ちいさい歯のくせに、本当に痛いのだ。

冬獅郎をからかいながら、一護もマカロンをかじる。
イチゴ味だと思っていたら、どうやらサクランボ味だったようで、さわやかな酸味が口にひろがった。

『おいしーか?いちご』
『うん、うまいよ。なにしろ冬獅郎とはんぶんこだからな』
『うん』

そういって笑った冬獅郎。
その笑顔はまさに天使で、先程の『今日一番の笑顔』というのはすぐに訂正になった。
口の周りにクリームをつけながら一生懸命にパフェを頬張る冬獅郎を、一護はプロフィットロールを食べるのも忘れ見入っていた。

その後に猫達と戯れた冬獅郎だったが、手や顔にについた甘い匂いに必要以上に猫にまとわるつかれることとなり、しばらくは我慢して遊んでいた冬獅郎だったが、そのうちに半泣きで命からがらといった感じに猫達から逃げ出してしまったのだった。