『一護サンタのおくりもの』(一護、高校生。冬獅郎、園児。)



静かな静かな12月の夜。
今日はクリスマスイブ。
どの家でも今夜はクリスマスパーティでさぞ盛り上がったことだろう。
うちでも今日は家族でクリスマスパーティだった。
親父と妹達にオレ、そしてうちの末っ子冬獅郎。
リビングに大きなクリスマスツリーを飾り、部屋中に色とりどりのデコレーション。
そしてとんでもなく豪勢な料理と大きなクリスマスケーキ。
思えば4日前には冬獅郎の誕生日パーティも行ったばかりで、なんとまあ贅沢な限りだ。

冬獅郎の誕生日にはイチゴがたくさんのっかったケーキにしたので、クリスマスは定番ケーキの切り株ケーキ。
オレにはちょっと豪華なロールケーキにしか見えないが。
普段あまり目にしないブッシュドノエルに子供達は大喜びだった。

冬獅郎は、数日前にケーキを吐くほど食べたというのに、今日もお腹を壊しそうな勢いで小さな口にケーキをこれでもかと詰め込んでいた。
本当にこいつはケーキが大好きだ。
それからケーキと同じ位冬獅郎の大好きなジュース。
夜中に何度もトイレに起こされてはかなわないので、出来るだけ与えないようにするのが大変だった。
自分のがなくなると、自分が使っていたストローをオレのグラスにダイレクトに差し込んでくるのだ。

そして、大騒ぎのパーティはみんなが満腹になったところで一段落し、後はみんなでゲームをしたりテレビを見たりして過ごした。
後片付けは明日全員でやることとし、今日は早めに寝ることにした。

理由はオレと親父がサンタになる為だ。
親父は妹達の。
オレは冬獅郎のサンタだ。

まだテレビを見たいという子供達を何とかなだめ、風呂に入れて寝かしつける。
妹達はさすがにオレ達の考えていることが薄々わかっているので、素直に風呂に入ってくれたが、
冬獅郎はまだ小さいので大人の事情なんてものはわかる筈もなく、テレビに引っ付いていてはがすのが大変だった。

だが、こんな時の魔法の言葉『いい子のところにしかサンタさんは来ないんだぞ』の効果はすごかった。

『いちご!ふろふろ!はやくねないとだめなんだぞ!』
『はいはい、今行くって』

って、お前が言う事聞かなかったんだろうが。

『いちごもねるのか?』
『オレ?オレは学校の宿題をやってから寝るから』
『はやくねなきゃサンタさんこないぞ?』
『オレは高校生だから、宿題やったらサンタがくるんだよ』
『ふーん』

冬獅郎の背中をコシコシ洗ってやりながら答えていると、なんとか納得したようだ。
一緒に寝てしまって冬獅郎にプレゼントを上げるのをしくじりたくはない。
何しろ冬獅郎は天然ゆたんぽだ。
あったかくてほわほわで、これで睡魔がきたらオレは勝てない。

いそいそと冬獅郎をベッドに押し込んで眠ったのを確認すると、オレはそっとリビングへ降りて隠してあった
プレゼントを眺めた。
プレゼントの中身はネコのキーホルダー。

先日買い物に行った時にゲーセンの前で冬獅郎がじーっと欲しそうに見ていたものだ。
この子は食べ物や飲み物はすぐあれこれ欲しがるくせに、おもちゃや着るものなんかは欲しくても我慢しているらしく、絶対に『欲しい』とは言わない。
冬獅郎は冬獅郎なりに本当の家族ではないオレ達に何か遠慮のようなものをしているらしい。

だが、そのときは珍しくオレと手をつないでいるのに、その手を引っ張るようにして立ち止まってずっと見ていたから、オレはどうしてもそのキーホルダーをあげたくなった。
幼稚園の鞄につけて嬉しそうに歩く冬獅郎の姿を想像しにやにやながら何度もこのクレーンゲームにチャレンジした。
どれだけの100円を投入したか思い出すのも恐ろしい。

そんなことを思い出しながら、忍び足でオレと冬獅郎の部屋へ向う。
そっとドアを開けて部屋を覗くと、くーくーとかわいい寝息が聞こえた。

小さなベッドで大きなぬいぐるみと一緒に眠る冬獅郎。
枕元に目をやると、昼間一緒に用意した可愛らしい靴下。
白地に青いくじらのイラストがプリントされた冬獅郎一番のお気に入り。
キーホルダーならこの小さい靴下にも入りそうだ。

冬獅郎の通う幼稚園ではサンタさんへの手紙を書いて出すという行事がある。
子供達は願いごとを書き、それを先生達が用意した偽物のポストに投函する。
その手紙は先生達が回収して、各園児の家庭に送ってくれるのだ。
子供達が間違って開封しないように小難しい漢字だらけで印刷のされた封筒に入れて。

そして、数日前に郵便受けに届いていた冬獅郎の手紙には一言『ケーキがほしい』と書かれていた。
だが、ケーキはパーティには欠かせないものなので簡単に叶ってしまう。
そしてやはりそれはもう叶ってしまった。誕生日とクリスマスパーティで2回も。
だからオレは手紙を見た日にゲーセンへと走ったのだった。
ようやく取れたそのキーホルダーを友人の助言で、可愛らしくラッピングした。
どうせビリビリに破かれるだけだからとオレは言ったのだが、女子から言わせれば『プレゼントを貰った時ラッピングを開けているときが一番わくわくするし、せっかくなのだから』
ということらしい。


そして、その苦労して手に入れたプレゼントを冬獅郎の小さな靴下に詰めようとそっと手を伸ばした時。

『ん…ぅー…』

冬獅郎が寝返りをうった。
目を覚ますのでは驚き、伸ばした手を慌てて引っ込めた。
そして、しばしその場に固まるオレだったが、どうやら起きてはいない。
冬獅郎は先日の誕生日に親父と妹達から貰った『いちろー』(巨大なウサギのぬいぐるみ)がとんでもなく気に入ったようで、毎日一緒に寝ていた。
オレもたまに冬獅郎と一緒に寝るのだが最近は冬獅郎とオレの間にその巨大なうさぎがどんと置かれる。
それだけにとどまらず、家中をいちろーと駆けずり回るのだ。
そのいちろーをしっかり抱きしめて寝返りをうった為、いちろーは哀れ冬獅郎の下敷きになってしまった。
いちろーのお腹に冬獅郎の足が乗っていて、ふわふわのうさぎの顔には寝相の悪い子供の肘。
可愛い姿に思わず吹き出しそうになった。

もっとこの可愛い寝姿を堪能したいが、早くプレゼントを靴下に入れねば起きてしまうかもしれない。
見つかってしまっては元も子もない。
再び靴下を手に取ろうとすると、いつの間にかその上には冬獅郎の手が乗っていた。
困った事に靴下を握りしめてしまっている。
下手に引っ張って取ろうとすれば起きてしまうかもしれない。

困ったオレは新しい靴下を出そうか、手をどけてくれるまで待とうかなどとさんざん悩んでいたが、がたがた物音を立てれば更に冬獅郎が起きてしまうかもしれないし、
ずっと握ったままだったら、オレがその場で寝てしまいそうだ。

冷静に考えればこの子が多少の物音で起きるはずもないのだが、こういうときは必要以上に緊張し、慎重になってしまうものだ。いっそサンタのコスプレでもして、起こしてしまえば良かったのかも知れないが、もしも起きなかったらオレがとてつもなく惨めだ。

ぐだぐだ考えていてもしょうがない。
オレはそっと愛しくて仕方ない弟の枕元に小さな箱を置くことにした。
残念ながらせっかく用意した靴下に入れてやる事は出来なかったが、まぁいいだろう。
無事サンタの役目を終えたオレは、冷えきった体をこすりながら自分のベッドに潜り込んだ。
目覚ましをいつもより1時間早くしておくことを忘れずに。
冬獅郎がプレゼントを見つける瞬間を逃す訳にはいかない。
別な意味でわくわくしながらオレはようやく眠りにつくことが出来た。

早朝、眠い目をこすりながら起きたオレは布団をかぶったまま冬獅郎が起きるのをじっと待っていた。
早く目覚めさせる為に、咳払いをしたり目覚ましを鳴らしてみたり…。
昨夜早めに寝かしつけたかいがあったのか、しばらく物音を立てていると『ふあぁー』というかわいいあくびとともに冬獅郎が起きた。

目をごしごしこすってむくりと起き上がった冬獅郎はしばらくぼーっとしていたが、昨日用意した靴下の事を思い出したらしく、
きょろきょろと周りを見渡し始めた。
なんだかオレは小動物の観察をしている気分だ。
やがて自分の下敷きになっているいちろーの更に下にある靴下になぜか埋もれてしまっていた箱をやっと見つけたようだ。
オレが眠っている間に、どんな戦いが行われていたのかという位乱れに乱れた小さなベッド。
せっかくのラッピングは、開ける前から中身が見えそうなところまで潰れて破壊されて見るも無惨な状態だったが、中身は無事だったようだ。
ネコのキーホルダーを確認した冬獅郎の顔はとても嬉しそうだ。
そして予想通りオレの元に駆け寄ってきて、寝たふりをしているオレの頭をばんばん叩いて報告して来た。
その反応にオレはとても満足だった。

『いちご!ねこだ!ねこのぶらぶらするやつだ!』
『おー!!良かったな!お前それこないだ見てたろ』
『ん…でもサンタさんはすげーな。なんでおれのほしいのわかるんだ?てがみにかいてないのに』
『サンタさんは冬獅郎のことならなんでもわかるんだぜ?』
『そっか…』

オレと話しながらも、冬獅郎はネコのキーホルダーに夢中だ。
早速幼稚園のバッグにつけてやろうかと思った時、冬獅郎がくるりと振り返り巨大なうさぎを引っ張って来た。
そして口から出た言葉は、

『いちろーのくびのリボンにつけて』

だった。

そしてオレは今日再びこのキーホルダーを取りにゲーセンに走る。
幼稚園バッグにどうしてもつけてやるんだという決意を胸に。