『一緒に寝よう1』(一護、中学生。冬獅郎、園児)

『いちごぉ…』

もうだいぶ夜も更けた頃、勉強机に向かっていたオレの背後で小さくオレの名前を呼ぶ声がした。
振り返ってみると、さっき寝かしつけたと思った冬獅郎がベッドの上に起き上がっていた。
ぽよぽよの眉をハの字にして、小さな手でぎゅっとタオルケットを握りしめ、オレの顔を上目使いに見ている。
大きな瞳は不安そうに揺れていて、今にも泣き出しそうな表情だ。

『どした?冬獅郎?』

宿題の英文を訳していた手を止めて、オレは冬獅郎の方へ体ごと向け、優しく問いかけた。

 

冬獅郎の家はオレの家の隣。
今日はオレのうちに泊まった冬獅郎。
あまりにもオレになついてしまって離れようとしない冬獅郎は、しょっちゅううちに泊まりたがり、母親を困らせていた。
オレも冬獅郎が来るのは嫌じゃないし、むしろ嬉しい。
週末などは毎週と言っていいほど泊まりにくるので、うちには冬獅郎の専用の布団も用意してあるくらいだ。
だが、オレと一緒に寝たがるため、せっかく親父がはりきって買ったそれはあまり活躍する場がないままだった。

冬獅郎が生まれた時、家が隣ということもあり、普段から付き合いのあったオレの親父はオレを連れて赤ちゃんを見に何度も遊びに行った。
そのときに見た赤ん坊はあんまりにも可愛く、大きな目とふわふわの髪が印象的で、当時小学生で冬休みに入ったばかりだったオレは、毎日の様に隣の家に遊びに行っては、飽きずに大きな瞳をくりくり動かすちっちゃな冬獅郎を眺めていた。
冬獅郎なんてかっこいい名前が付けられた赤ん坊は、その名前とはかけ離れたような天使みたいな顔をしていて、すべすべのほっぺはもぎたての桃みたいだった。
じっとオレを見つめてと思ったら、突然にこりと笑ってみたり。
妹は二人いたけれど、また弟が出来たみたいですごく嬉しかったのを覚えている。

そして、物心がついた時には、冬獅郎はオレにべったりで、遊びに行くとずっとオレから離れなくて、帰る時なんかは良く泣かれたもんだった。
あの頃はオレは自分の家にいる時間より冬獅郎の家にいる時間の方が長かったんじゃないかと思う。
小学校から帰って、冬獅郎に会いにいくと、オレの姿を見つけた冬獅郎は、おぼつかない足取りでよたよたと嬉しそうに両手をのばして寄ってくるのだ。

『いちごぉ』

とこれまたたどたどしい発音でオレの名前を呼びながら抱きついてくる。
その姿があまりにも可愛くて、わざとオレからは近づいて行かないようにして、玄関先で冬獅郎が自分でオレの元までたどり着くのを待っていた。
冬獅郎はオレの元にたどり着くと、きゅーっとオレの服をつかんで顔を上げてくれるのだが、頭が重いせいですぐ後ろにひっくり返りそうになる。
もうたまらなくかわいい。
そうしてすぐに抱っこしてやると、冬獅郎からはとってもいいにおいがしたんだ。

冬獅郎といる時間をたくさん作りたくて、友達とは学校にいる時間内で出来るだけ遊んだし、居残りなんてさせられないように真面目に勉強して、宿題は冬獅郎の家ですることにしてた。
今でこそ我が儘放題な冬獅郎だが、ちっちゃいころは物わかりが良くて、宿題をしているオレの横で、オレの真似をしながらきちんと座ってにこにこ笑っていた。
なんで今はあんなに行儀が悪くなったんだろう…。

冬獅郎が幼稚園に入園してからは、朝はいつもオレがバスに乗せてやって、迎えに行ける時は出来るだけ行った。
冬獅郎の母親は『そんなことしなくていいのよ』と、申し訳なさそうに言ってくれたが、オレがそうしたかったのだから全く問題なかった。
ちっちゃい手を握って幼稚園のバスが来るのを待っているのも好きだったし、なにより帰りにオレが迎えに行った時のあいつの嬉しそうな顔が好きだった。
バスを降りて駆け寄ってくる冬獅郎の頭を何度もなでて、手をつないで家に帰った。
そんな可愛らしい笑顔をオレにはたくさん見せてくれていた冬獅郎。
しかし、だいぶ後から知ったことなのだが、冬獅郎は幼稚園ではいつも一人でいるらしく、友達を作る気配も無いという。
誘ってもついて行かず、あまりしゃべらず、みんなが遊んでいる教室のすみっこで一人絵を描いたり、絵本を読んだりしてるんだって…。
先生達はそんな冬獅郎を心配しているようだったが、本人は至って気にしていないらしい。

オレといる時はあんなに元気なのに…。