『一緒に寝よう2』

ちんまりと丸くなって座っている冬獅郎を見ていたら、昔のことを思い出してしまった。
今はそんなことはどうでもいい。
持っていたシャーペンをノートの横に置いて、椅子から立ち上がりながらオレは冬獅郎の寝ていたベッドへ近づいた。

『どうしたんだ?怖い夢でも見たのかぁ?』

相変わらずタオルケットをくしゃくしゃに丸めて抱きしめている冬獅郎。
オレが寄って行くと、少し表情が和らいだ。
寝ている冬獅郎が気持ち悪くならないように、暖房はつけずにいたので、部屋はとても冷えていた。
オレは服を何枚も着込んで宿題をしていたので平気だが、冬獅郎はパジャマだけで布団から出ているので、このままでは冷えてしまいそうだ。

『ほら、今日は寒いんだからちゃんと布団かぶってないとだめじゃんか…』
『……』

寝癖でぴんぴんとはねている、柔らかい髪を梳いてやりながら抱き寄せると、冬獅郎はオレの着ているセーターをきゅっと掴んで、ばふっと可愛い頭を擦り寄せてきた。
ちっちゃな手は、もう既に少し冷えていた。
だがそんな可愛い仕草に、オレは一瞬きゅんとしてしまって、思いっきり抱きしめてほお擦りしそうになったが、ぐっとこらえた。

(かわいーなー……じゃねぇ…)

『さ、寝なきゃ、冬獅郎このままじゃ寒いだろ?』

言いながら冬獅郎の小さな身体を、横にしてやろうとするとオレの服を掴む力が強くなり、より一層頭をぎゅうぎゅう押し付けてきた。

『やだぁ…!いちごも…!』
『お…おい、冬獅郎?』

ぎゅっと目をつぶって、動こうとしない。
だが、オレはまだ明日の授業で提出しなければならない宿題が残っている。
一緒にこのまま寝てしまいたいのはやまやまだが、宿題をさぼるわけにもいかないので、オレは少し手に力を入れて、冬獅郎の体を引きはがそうとした。

『どうしたんだよ?オレまだ宿題あとちょっと残ってんだ。先に寝てろよ?な?』

優しく問いかけるが、引きはがそうとするオレの腕にものすごい力で抵抗して、冬獅郎は黙って顔をセーターに埋めたまま、ふるふると頭を左右に振った。
やっぱり怖い夢でも見たんだろうな…と思いつつ、しばらく小さな頭や背中をなでてやっていたが、このままでは冬獅郎が冷えてしまうし、オレの宿題も進まない…。
かといって、大きくてこぼれ落ちそうな、きれいな瞳にうっすら涙を浮かべて不安そうに見上げてくる冬獅郎に『寝ろ』なんて突き放せるはずもなく、オレは困り果ててしまった。
小さくため息をつきながら、とりあえず冬獅郎の説得を試みる。

『怖い夢、見たのか?』
『…ぅん』
『そっか…大丈夫か?怖かったのか?』
『もぅ…寝ない…もん』
『それは駄目だろ?明日遊べなくなっちまうぞ?』
『…だって……またおばけが……おれのことたべにくるもん…』

おばけの夢見たのか…
そういえば、先週あまりにも冬獅郎が言うことを聞かなかったので、ちょうどつけっぱなしのテレビに映ったアニメのユーレイをオレは指差して、

『冬獅郎!言うこと聞かないとあいつが来てお前を食べちゃうんだからな!』

と脅かしてやったのだが、冬獅郎ときたら、

『あんなのうそだもん!あんなやついないもん!いちごのうそつき!』

なんてわめきながら、ちっちゃな可愛い手であかんべーをしてオレに追っかけ回されてた。
逃げ回る冬獅郎を追っかけて、捕まえて。

『捕まえたぞ!冬獅郎!』
『うぎゃ!じゃあ こんどはいちごがにげてー!』
『鬼ごっこじゃねーよ…』

いつの間にか鬼ごっこと化した追いかけっこに、楽しそうに走り回っている冬獅郎を見ていたら、オレもぶつぶつと呟きながらも、なんだかどうでも良くなって来て、終いにはなんで怒ってたのかも忘れてしまった。

あのとき冬獅郎は憎まれ口を叩きながらも、強がっていただけで実は、ちゃんと脅かされていてくれたらしい。

(やれやれ…なんて可愛い…くそぉ…)

きちんと怖がってくれていた冬獅郎の可愛さに、思わず身悶えそうになったオレだったが、必死に冷静を装って固まっていると、下から動かないオレを不審に思ったのか問いかけるような声が聞こえた。

『いちご…?』

黙り込んでいるオレに不安になったのか冬獅郎が顔を上げて首を傾げる。

『ん…?あぁごめんごめん!じゃあオレも一緒に寝るからちゃんと冬獅郎もあったかくして寝よう?』
『ほんと…?』
『おう!じゃあオレ机片付けて、着替えるからちょっと待っててな?』
『うん!』

泣きそうだった冬獅郎の顔が、途端に明るくなった。
そんな姿にオレはにっこり微笑んで、目の前の小さな身体を一度ぎゅっと抱きしめ、おでこにキスをした。
すっかり冷えてしまった冬獅郎の小さな肩に、くしゃくしゃのタオルケットを広げ背中からかけてやった。
しょうがない、宿題は明日の昼休みにでもやろう。
幸い英語は午後からだし、後少しなので、急いで昼食を済ませれば間に合うだろう。
バタバタと勉強机の上を片付け、急いで寝間着に着替える。
脱いだ服は椅子に掛け、朝たたむことにした。

『おまたせ!』

じっと大人しく待っていた冬獅郎を覗き込み、寝る準備が整ったことを知らせると、嬉しそうにタオルケット巻きになった冬獅郎が、オレがベッドに入りやすい様に少し後ずさってくれる。
ふわふわのタオルケットに包まれた体から、顔だけ出してもぞもぞ動く姿はまるで小動物みたいで、本当に可愛い生き物だ…と改めて確認するオレの脳内。
布団を整え、冬獅郎に被せたタオルケットを剥がすと、小さい体を更に小さくしながらぶるっと震える。
急いで丸くなった冬獅郎を抱えつつベッドに潜りこんだ。
さっきまでこいつが寝ていたので、布団がじんわり暖かくて、なんだか嬉しくなったオレは思わず微笑んだ。
つられたのか冬獅郎まで可愛い笑顔になった。
たまらなくなったオレは、桜色のふかふかのほっぺにキスをして、しっかり頬ずりしてから、自分の腕にすっぽり収まった、あったかくて愛らしい子供を優しく抱きしめた。
冬獅郎の髪に、顔を埋めるとくすぐったがりな子供は、くすくす笑いながら、頭を両手で押さえながらオレから少し逃げた。

『いちごぉ…くすぐったいよぉ…』
『だってお前あったけーんだもん』
『いちごもあったかいー』
『もう寝れるか?電気消すぞ?』

すると、途端にまたしても可愛らしい眉を寄せ、離れた体の隙間を埋めるように密着してきた。
そして、おそるおそる訊ねてくる。

『う…ん、おばけ…でない?』
『ばーか!出たってオレがいるからへーきだろ?』
『うん!へーき』
『よし!じゃあ寝よう』

枕元のリモコンを手に取り、電気を消すと、うっすら外の街頭の明かりがカーテンの隙間から入ってくるだけの暗闇になった。
やっぱりまだ怖いのか、オレにしっかりしがみついてくる。

『大丈夫だよ』

安心させるようにそっと囁いてやり、背中を軽くぽんぽんと叩く。

『ぅん』

オレのパジャマに顔を埋めているので、くぐもった声で一応返事をしてくれた。
しばらく冬獅郎の体を撫でたり、軽く叩いたりしていると、やっと安心したのか、暖まったからなのか、小さく寝息を立て始めた。
オレも今日は授業でマラソンがあり、まじめに完走したので、程よく身体が疲れていたから、すぐに眠りに落ちた。

冬獅郎が今度は楽しい夢を見られるように祈りながら。