『傘』(一護、高校生。冬獅郎、小学生)

朝は晴れていたのになんだか怪しい空模様になってきた。
まだ昼休みだというのに外が薄暗い。
どうやらあの分厚い雨雲のせいのようだ。

『げ!降るんじゃねーだろな……』

教室の窓枠に手をついて空を覗き込む一護
少し天気を心配しつつも、鳴り響く午後の授業開始を知らせるチャイムに
窓から離れ席に着いた。
面白くもない歴史の教科書をパラパラめくりながら
ふと窓の外に目をやると
先ほどよりも更に暗くなっていて、ぽつぽつと水滴が教室の窓を叩く。

『あーあ…朝言うこと聞いてりゃよかったな…』

今朝家を出る前のこと
ランドセルに折りたたみの傘を詰めようと一生懸命な冬獅郎に
一護はせかすように声をかける

『早くしろよ冬獅郎!遅刻すんぞー!』
『うっせぇな!てめーこそ傘いいのかよ!絶対降るぞ』
『こんなに晴れてんだぜ?ぜってー降らねえな』
『絶対降る!』

降水確率が50%位までなら傘を持たない主義の一護
逆に30%位から折りたたみの傘を持ち、60%を超えたら普通の傘を持って行く
冬獅郎。

いつもの通学路を並んで歩きながら、降る降らないと
言い合いながら途中まで一緒に登校をする
小学校と高校への分かれ道へ来たところで、冬獅郎は一護を見上げ
給食着をぶら下げた手を振り上げながら

『ぜってー雨ふるからな!降ったって傘持ってきてなんかやらねーんだからな!』

そんな捨て台詞のような言葉を残して冬獅郎は走って行ってしまった

一護はそんな朝の様子を思い出しながら

『ちぇ…今頃あいつ家で笑ってやがるんだろーな…』

雨が降る前には帰宅出来たであろう冬獅郎
一護にとって可愛くて仕方ない大切な弟なのだが、今は少しだけ憎らしい。

『ばーか』

と笑いながら言う冬獅郎の声が聞こえそうな気がした
机に頬杖をつきてため息まで盛大についた一護は諦めたように

『しゃーねえ…しばらくがっこにいるか…早くやんでくれよ…』

授業が終わってもやむ気配のない雨。
妹に電話して来てもらうのも悪いし、冬獅郎に持ってこさせるのはくやしい…
クラスの誰かに入れてもらうのもなんだか面倒だったから
図書室で宿題でもすませてしまおうと考えて、ごそごそノートやら教科書をカバンからを漁りだしたとき

『あれ?校門とこに小さい子がいるー!』

窓際にたむろしていた数名の女子生徒が
外を覗き込んで声をあげた。

『あ!ほんとだ!どうしたのかな』
『傘持ってるよ!誰かの弟か妹じゃないの?』

宿題を抱え席を立とうとしていた一護は
はっとして窓へ駆け寄りガラスに張り付いた

『……冬獅郎………』

ちいさな黄色い傘さして
大きな傘引きずって
校門の前をうろうろしている
たくさんの高校の生徒が校門から出て行くのに少し怖がっているようで
だんだんと道路の向こうへ後ずさって行く。

下校していく生徒たちが不思議そうに冬獅郎を見たり
女子なんかは声をかけているようで

『どうしたの?おねえちゃんかおにいちゃん待ってるの?』
『え…いや…あの』
『誰の弟さんかなぁ?』
『えっと……う…』
『かわいいねー』

そんな会話が聞こえてきそうだった。

抱えていた宿題を乱暴にか番に詰め直し
回りの席の椅子を蹴倒しながら廊下へ飛び出した。
階段を駆け下りて、乱暴に靴を履き替える…
雨足が思ったより強かったがそんなこともかまわず校門へ向かって走る。

『冬獅郎!!!!』

門を出たところで、数人の女生徒に囲まれた黄色い傘をめがけて叫んだ。

『いちご…』
『と…冬獅郎…!』

息を整えながらもう一度呼びかけると
ぶんっ!
っという音を立てて傘が一護めがけて飛んできた。

『おわっ』

しっかりキャッチし、笑顔を冬獅郎にむけて

『冬獅郎…ありがとな!』
『早く傘させよ!ばか!せっかく持ってきてやったのに!』
『あぁ…わりぃ』
『ふん……』

言われた通り一護は傘をさし、濡れた肩の水滴を払いながら
目の前の不機嫌そうな子供にもういちど『ありがとう』と言った。
冬獅郎はすぐに目線をそらして
くるりと背中を向け、帰ろうとする。

『おいちょっと待てよ!』
『うるさい!見たいテレビあったのに!』
『うわぁごめん冬獅郎!』
『今度お前がDVD借りてこいよ!』
『わかったわかった』

憎まれ口を叩きながらも本当に心の優しい子だな…と一護は思う
誰よりも愛しいと思う。
観たかったテレビと外の雨を交互に見比べながら困った顔をしている冬獅郎の様子が手に取るように分かって…

横に並ぶと、一護からは黄色い傘と、小さな足しか見えなくなる。
しばらく二人は護んで歩いていたが、

風邪を引きやすい…というか虚弱体質(病弱ではない)の冬獅郎が
ぐすぐすいいだした。
一護は屈んで黄色の傘の中を覗き込み、冬獅郎の顔色を確認する。
少し青白い気がする。

『お前…寒いんだろ!いつからいたんだ?』
『しらねー』
『大丈夫か?』

近寄って手を引き寄せてみると想像以上に冬獅郎の手は冷たかった。
雨が降り始めてすぐ家を出たに違いない
一護は少し眉を寄せて…

気をつけていないとすぐ風邪を引いて寝込んでしまう冬獅郎
風邪ひくと熱がなかなか下がらなくて何日も学校に行けなくなってしまう。
夜中に苦しそうに咳き込む冬獅郎の姿が思い出されて…

『早く帰ろ!取り合えずそんな薄着じゃ……』

濡れているのでどうしようか迷ったが、っ寒そうな細い肩をそのままにしておくことも出来ず、一護は自分の上着をハンドタオルでしっかり拭いて、冬獅郎の肩にかけてやった

冬獅郎の手を引き急ぎ足で歩いていたら突然雨がやんで雲が切れ、うっすら夕焼けに染まった空が見えた。

『あ…晴れた…』

そらを見上げながら小さくつぶやく冬獅郎
ちぇ…せっかく持ってきたのに…
とぶつぶつ言いながら傘をたたむ

一護も同じように傘をたたんで、少しふてくされてしまったらしい
冬獅郎の頭をぽんぽんと軽く叩いて

『ごめんな…?冬獅郎…』
『…別に…』

とにかく晴れたからと言ってこのままぼーっと突っ立ている訳にもいかない
早く帰って冷えてしまったこの子を暖めないと…と一護は
冬獅郎の手を引いて家路を急ぐことにする。

前方に大きな水たまりが見えた。迂回するのも面倒とばかりに
一護は冬獅郎をひょいっとを抱えて大跨ぎ
降ろすのも面倒なのでそのまま抱えて小走りで急ぐ

おろせよ!
ばか!

腕の中で暴れる子供の声は聞こえないふりを決め込んで
角を曲がれば家に着く。

玄関でカバンやら傘をおいたところでやっと一息ついた。
自分も少し濡れたし、冬獅郎も冷えてしまっているから

『冬獅郎!風呂はいっぞ!』
『あとでいいって…』
『だめだ!』
『やだってば!』

またしても暴れる子供の手をひっぱり、晩ご飯の用意をしていてくれている妹に『先に風呂はいる!』と声をかけて、浴室へ急ぐ
冬獅郎の服を脱がせて、自分も制服を脱ぎ捨ててシャワーを全開で出した。
冬獅郎へシャワーを向けて背中から暖かいお湯をかけてやると

『あったけー』

とほっとしたような声が聞こえた。

『寒気とかしないだろうな?』
『へーき』

身体を洗っている間に浴槽にお湯を張って、二人で湯船にゆっくり浸かった。
冬獅郎はオレの膝の上に座って

『なぁ 明日も雨なんだぞ ちゃんと傘持って行けよ?』
『あぁ…わかった ありがとう冬獅郎』

冬獅郎は満足そうに少し笑った。

 

 

黄色い傘をさすチビに萌え萌えになって…。
小学生の必須アイテムだと思うの。
可愛いと思うの。