『こたつ』(一護、幼稚園の先生。冬獅郎、園児)

『うー寒いなー…』
『さみぃな…』

幼稚園からの帰り、家の側でバスを降りた一護と冬獅郎は、ぴゅーぴゅー吹く北風に首をすくめる。
今日は一段と寒い。
天気予報でも、今年一番の寒さになるだろう、夜からは雪がチラつくかもしれないと言っていたのを一護は思い出した。
どっさり雪でも降れば、幼稚園も休みになって、一護の足下で寒そうに震えている冬獅郎も元気に遊べるのにな…と思いながら、一護はちいさな手を引いて自分のアパートへと向かった。

『早く帰ってあったまろう。こたつでおやつにしような』
『おう!』

こたつという言葉をきいた冬獅郎が、ぱっと顔を上げて元気に返事をした。
冬獅郎はこたつがお気に入りらしい。
洋式な冬獅郎の家にはこたつが無いので、一護の実家に言った時初めて目にしたそれに最初はおっかなびっくりだったが、一度こたつに入ってみてからはそれはそれ
喜んで、嬉しそうにいつも横になったり、潜ったりして遊んでいる。
一護の一人暮らししているアパートにはこたつは無かったが、冬獅郎を預かることが多くなり、どうせあれば自分も使うだろうと正月明けに思い切って自分のアパートに買った。
それからは二人でとても重宝している

こたつがあるとだらしない生活になってしまいがちで、一護が一人で部屋にいる時などはそのままこたつで寝てしまって体が痛くなったり、風邪をひきそうになったこともある。
だが、なにより冬獅郎がこたつを喜んでくれているのでよしとする。
冬獅郎にはこんなだらしないことをさせないようにしなくては…と思いながら。

『手つめてー』
『手袋は?幼稚園に忘れてきたんか?』
『わかんね』
『カバンは?』

歩きながら冬獅郎が手が冷たいと言い出し、そういえばと一護は自分が握っていた手が手袋をしていないことに気づいた。
冬獅郎は一護の手に包まれていない方の手に、しきりに息を吐きかけている。
そして、ごそごそ斜めがけにした黄色いバッグの中へ、手をつっこんで手袋を探す。

『ない…』

がっかりしたような声で、眉を寄せて一護を見上げてきた。
一護はしゃがんで冬獅郎と目線を合わせ、小さな両手をとって言う。

『幼稚園にきっと忘れてきちまったんだな。明日一緒に探そうな?』
『…うん』

少しすねたようにうつむいた冬獅郎を、ひょいっと抱き上げて再び一護は歩き出した。
冬獅郎は一護の服を掴んで抱かれていたが、突然一護の首に巻かれたマフラーの中に冬獅郎は手突っ込んだ。

『うわっ つめてえ!』
『いちごあったけー』

嬉しそうな顔でマフラーの中で、手をごそごそ動かしている。
ちっちゃな手はびっくりするくらい冷たくて、その冷たい手を一護の首にぐいぐい押し付けるものだから、一護は苦しいやら冷たいやらでとうとう悲鳴を上げる。

『こ…こら!降ろすぞ!もう少しだから我慢しろ!』
『だって、手つめてーんだもん』

余計に手をぐいぐい押し付けてきた。
二人でぎゃあぎゃあ言い合いながら、一護の住まいにたどり着いた。
階段を上がり、冬獅郎を降ろして玄関の鍵を開けた。
部屋はひんやりとしていたが、今までいた外よりは遥かにあたたかい。

『ちゃんと靴揃えてな 手洗えよ』

早速部屋にあがろうとする冬獅郎の小さな背中に声をかけ、自分もしっかり靴をそろえて部屋に入り、こたつのスイッチを入れておく。
冬獅郎を捕まえて、手を洗わせてうがいをさせて上着を脱がせた。

『すぐこたつあったかくなるからな?』
『うん いちごおしっこ…』
『今日は冷えるからなートイレも近いかー』

幼稚園を出るときに済ませたのに、さすがは冬だ。
それに半ズボンでは冷えてしまって当然だろう。
トイレをすませた頃にはこたつはすっかり暖まっていた。

『こたつ入っていいか?』
『ああ、もうすっげーあったかくなってるぞ』

いそいそこたつに入る冬獅郎。
顔だけ出して、仰向けで寝転がっている。
その顔がとても幸せそうだったので、一護まで微笑んでしまった。

『あったけーなーこたつー』
『今おやつ持ってくから待ってろな』

冷蔵庫から買っておいたプリンを出し、お皿にあけて冬獅郎の嫌いなカラメルを取り除いてやる。
カラメル部分はその場で一護が飲み干した。

そして、一護も自分用にホットココアでも作るか…なんて考えていた時、部屋から悲鳴が聞こえた。

『いちごー!て!て!』

冬獅郎がなにやら騒ぎだしている。
一護はあまり慌てた様子も見せず、問いかける。

『ん?どうした?ぶつけたか?』

いつも冬獅郎はおとなしく座っているなんてことはなく、この狭いアパートで走り回り、あちこちぶつけては痛いだのなんだのと大騒ぎするので、またどこかに膝でもぶつけたんだろうと軽く流したのだ。

『痛い!て 痛いぃ!』
『今いくから…』

返事をしながら、一護はやかんに水を入れ、火にかける。

『いちご!うえぇ…いち…ごぉ…』

大声で叫んでいた冬獅郎だったが、だんだん声が小さくなって、とうとう泣き出してしまったようだ。
さすがにいつもと違う様子に、おかしいと思った一護はガスを止め、冬獅郎の元へ駆け寄った。
冬獅郎はこたつから出て、両手を投げ出しうつむいて泣いている。

『どうした?どこが痛いんだ?ぶつけたんじゃないのか?』

冬獅郎はぶんぶん頭を振って一護の言葉を否定した。

『て…てぇ…!てがいたいー…』

手が痛いらしいのだが、ぶつけたりはしていないようだった。
よく考えたらこたつに入っていただけで、走り回ってもいないのにぶつけたりはしないだろう。

『ちょっと見せてみろ!』

ぐいっと冬獅郎の手首を引き寄せたとたん、とんでもない悲鳴を上げ、大声で泣き出した。

『うあぁぁん!いたい!いたいー!』

慌てて一護は手を離したが、どうしてこんなに痛がるのかわからない。
冬獅郎は幽霊みたいに、手を前にぶらんと下げて泣いている。
触ることも出来ないのでは仕方ないので、取りあえず聞いてみることにした。

『冬獅郎?どんな風に痛いんだ?』

出来るだけ優しい声で聞きながら、冬獅郎の顔を覗き込んだ。
怪我もしてなさそうだし、どう痛いのかわからないのでは治療のしようもない。
とりあえず、落ち着かせることが先だ。
冬獅郎は小さな両手を体の前にだらんと下げたまま一護を見上げる。

『びりっとする…ひっく…』
『びり…?』

しゃくり上げながら説明してくれるが、よく分からない。
それでは…と、その前の状況から聞いてみることにした。

『こたつはいったら痛くなったのか?』
『…うん』

こたつで痛いとなるとやけどか何かかと思われた。
だが、外傷がない。
まさか感電とかじゃねえだろうな…と思いつつこたつ布団を持ち上げ、中をのぞくがいたって普通で、どこも異常は見当たらない。
昔のこたつのように触ったらやけどするような作りでもないし、結構頑張って値のはるものを買ったから、電気であっためるというよりはこたつの中にヒーターが入ってる感じだ。
だとすればどうしてこんなに痛がっているのだろう…?
もう一度一護はゆっくりと質問していった。

『こたつ…入って、て、いれてたら…びりびりした』
『うん、それで?』
『なおった』
『は?』
『もうびりびりしねえ…なおった』
『え?治ったって…?』

どうやらほんとにもう痛くないらしく、手をぶんぶん振り回している。
その顔は本当に痛みなど感じていないものだ。
おそるおそる一護は、もう一度冬獅郎の手を取ってみた。
ひっくり返したり、肘まで袖をめくったりしたが、本当に痛がられない。
なんだったのいうのか。
いい加減手をはなせと、冬獅郎が手を引っこめ両手を後ろに隠してにらんできた。

『もういたくねえもん』
『なんだよ……あ…もしかして…』

手袋をしないで外から帰ってきた冬獅郎。
冷たい水で手を洗って、更に手が冷たくなっていたはずだ。
そんな手を一護があっためていたこたつに、いきなり突っ込んだもんだから、突然血行がよくなって…。
そういうことか…と一護はため息をついた。

『しびれただけか……びっくりさせんなよ……』

でも、子供からすれば、こたつに手をつっこんで突然手がしびれだしたらパニックだろう。
なにもしてないのに、びりびりしだしたらびっくりするだろうし、そんな手を触られたりしたら余計じんじんしてしまって、痛みが増してしまう。
しばらくすれば自然に治ると大人は分かるが、小さい冬獅郎にしたら大事件だ。

しかし、もうしびれの取れた冬獅郎はといえば、キッチンへ自分のおやつを取りにとっとと行ってしまっていた。
もう痛かったことすら忘れてしまったらしい。

だが、冬獅郎はプリンの乗ったお皿を持ち、スプーンを口にあてて、部屋の前で困ったように突っ立っている。
どうやらこたつが少し怖くなってしまったようだ。
すがるような目で見られ、一護はちょっときゅんとしてしまった。
小さな声で心配そうに冬獅郎が聞いてくる。

『こたつ…いたくならねえ?』
『あーどれ…ちょっと来てみろ。オレが調べてやる』

おいでおいでをして、冬獅郎を呼ぶ。
素直に近づいてきた冬獅郎から、いったん皿とスプーンをとってテーブルへと移す。
そして、一護はぎゅうっと冬獅郎の両手を握った。
だいぶあったかくなっている冬獅郎の手。
これならもうしびれたりしないだろうと思われた。

『だーいじょうぶだ!もういたくなんねーよ』
『おー』

ぱっと冬獅郎の表情が明るくなり、一護にしがみついてきた。
そのままこたつのそばに座っていた一護の膝に、ちょこんっと体は小さいくせにでかい態度で乗ってきた。
机に乗せていた皿を引き寄せ、美味しそうにプリンを口に運ぶ冬獅郎を眺めつつ、一護はまたしても小さくため息。

(おれもココアとか飲みたいんだけど…)

ごきげんになった冬獅郎がまた機嫌を損ねたりしたら面倒なので、膝の上の子供がプリンを食べ終わるまで待つことにした。
明日からは絶対に手袋を忘れないようにと誓いながら……。

『いちご!あーん』
『ありがと』

今度は一護の足がしびれてしまう番だった。