『夏日』

『おい…一護…あちぃ…』
『あー…あちぃな…』
『なんとかしろよ…おれ、暑いの苦手だって…』
『つっても、オレの部屋のクーラー壊れてるし……ってか、まだ初夏だぜ?お前真夏どーすんだ?』
『帰る』
『帰る…って…まぁ…』
『もう、しばらく現世にはこねぇ!』
『ちょ…おま…しばらく…って、んな…だって、あっちだって夏は暑いだろ?』
『…お前の暑苦しい顔見なくて済むだけ、涼しい…』
『…てめぇ…』
『ばーか…本気にすんなよ…ガキだな…』
『…冬獅郎に言われたかねえよ…わさびも食えねぇお子様のくせに…』
『うっせ…んなもん食わなくたっていーんだよ…ったく…なんか涼しくなる方法でも考えろってんだ』
『お前の斬魄刀あんじゃねーか…』
『…疲れるからやだ』
『あそ…』

しかたなく、暑い暑いとうるさい日番谷の為に一護はコンビニに買い出しへと行く事にした。
買って来たものに文句を言われるのが嫌なので、一緒に行こうと提案したが、その意見は瞬殺された。
炎天下のなか、一護は出来るだけ日陰を選んでコンビのへと向かう。
だが、熱されたアスファルトからの熱気が下から上ってくる。
首や背中を大量の汗が流れ、このままでは本当に干上がってしまいそうだった。
コンビニのドアをくぐり、冷房の聞いた店内へ入った時は、あまりの気持ちよさにしばらく入り口に立ち尽くしてしまった。

アイスを買い物かごへ山ほど積み上げ、ついでに飲み物やお菓子を選びレジで精算する。

『3580円でございます』
『あ…はい』

なんだかパシリな気分になって、小さくため息が出た。
悔しいので、日番谷の副官である松本乱菊から預かっている『日番谷の生活費(半端な金額ではない)』から支払いをした。
こういうときは、まだ高校生である自分が少し情けなくなる。

アイスが溶けないように、急ぎ足で家にもどる。
せっかくコンビにで引いてくれた汗が、またしてもどっと吹き出す。
一瞬寄り道してどこかで涼もうかと思ったが、アイスが溶けてしまってはあの、天使みたいな顔をした小さな死神に本気で殺されかねない。
更に歩くスピードをあげ、家路を急ぐ。

二階の自分の部屋に入ると、ベッドにうつ伏せに日番谷が突っ伏していた。
どうやらこの暑さに疲れ、力つきて寝てしまったらしい。
既にロケ初めているアイスを一旦床に置くと、一護は日番谷を慌てて起こす。

『アイス買ってきたぞ!』
『うー…食う…』

顔を上げもせずに、日番谷はくぐもった声で返してきた。
手だけが愛すを求めてふらふら宙を泳いでいる。

『ほら!どれがいいんだよ!』
『なんでもいい』

床に置かれた袋から、アイスの一つを適当に選んで、日番谷に渡す。
ずるずるとベッドからずり落ちる様に降りた日番谷は、足を投げ出したお行儀のよろしくない格好でアイスを頬張り始める。

『うめー……』

アイスが大好きな冬獅郎は、2つ3つとアイスを食べ続けている。
バニラ、チョコレート、抹茶……なんでもいいらしい。
しばらくは勢いで食べていたようだが、さすがに寒くなってきたのか、食べる手を止めて足を丸めてそのまま床に寝転んだ。

『お前食い過ぎだろ…』
『うるせぇ…』
『腹壊すぞ?」
『壊さねえよ…』
『…お前…寝るなら、ちゃんと布団かけて寝ろよ?』
『んー…』
『…ったく…』

腹も満たされ、体内から冷やされて心地よくなったのか、うつらうつらしている日番谷。
本当に良く寝る奴だと思いながら、一護は床に寝転んでしまった日番谷を抱え上げ、ベッドに運ぶ。
思った通り、アイスを食べ過ぎて、手や足の先が冷えて冷たくなっている。
眠ってしまった冬獅郎にタオルケットをかけ、頬を撫でた。

早くこの部屋の冷房を修理してもらわなければ…と思いながら、一護も気の済むまでアイスを腹に詰め込んだ。
残りは冷凍庫に仕舞い、どうせ起きた時にまた『暑い』と言い出すであろう恋人の為に取っておく。
小さな体の癖に、目一杯広げた手足がベッドを占領しているので、となりに横になる事が出来ない一護は、少しつまらなそうに顔をしかめながらも、すやすやと気持ち良さそうな寝息を立てる日番谷をしばらく眺めた。
あの日番谷が、自分の部屋で警戒もせずに安心しきって寝てくれているのだから。実は凄い事なのだ…と一護はたまに思う。
それだけでも十分嬉しい事だったが、やはり一護としては色々物足りない部分が多かった。
暑い日が続いている間は無理かも知れないが、涼しくなったらあちこち連れ回して、少しは恋人らしい事もしたい。

まだ夏も始まったばかりだと言うのに、一護の頭の中は既に秋の予定の事でいっぱいだった。