『ぬいぐるみ2』



商業施設に着いたオレは、まず案内板とにらめっこをして『キッズガーデン』と書かれた一角を目指した。
2階に上がって周りを見渡すと子供服の店がずらり。
なんだかとってもファンシーだ。
ひとつひとつの店をちらちらと覗きながら歩くが、どれもこれも同じくかわいらしいデザインが並んでいて目移りしてしまう。

一度全ての店に入って、マフラーのコーナーを探して見て回ることにした。
小さい子供用のマフラーなんてそんなに無いと思って甘く見ていたオレだが、すぐにそれは大きな間違いだったことに気づかされた。
デザインも色も種類豊富で、大人顔負けの品揃えだ。
とりあえず丁寧に見てはみるものの、数の多さに辟易してきた。
適当に見ていては拉致があかないと思ったオレは、立ち止まって落ち着いて考える。
まずある程度の色を決め、それから絞って行こうと決める。
首を巡らせれば赤…、青……黄色…と、やはり子供の好む色は原色やピンクや水色といったものが多い。
だが、冬獅郎のせっかくの誕生日プレゼントなので、少し変わったおhされなものにしたかった。

再び通路をきょろきょろしながら歩いていると、ふと目に入った薄いグリーンの色。
立ち止まってじっと見つめてみる。
あの子…冬獅郎の瞳の色に近い。
その店に引き込まれるようにして入ったオレは、そのマフラーを手にとってみた。
手触りもふわふわでかなり気持ちがいい。
なかなか無い色と手触りにすっかり気に入ったオレはコレに決めようと。マフラーを持ってレジへ向かおうとした。
だが、そのマフラーが置いてあった棚の上に帽子が山積みになっているのだが、そこに今オレが手にしているマフラーとお揃いの毛糸の帽子があった。

『……』

このマフラーと帽子をセットでつけている冬獅郎を想像し、一人にやにやしてしまったオレだが、はっと我に返り帽子を手に取った。
帽子もマフラーと同じで手触りは抜群だ。
すっかり気に入ったオレは今一度レジへと向かいかけた。

『おっと』

だが、ふとある事に気づいて立ち止まる。
そういえば値段を確認していなかった。

『……げ…』

自分の今いる店はどうやらすこーしセレブなお店だったらしい。
店内を見回すと、「これらを子供が本当に持つのか?」と思う様なおしゃれな小物やバッグがあり、服もカジュアルというよりフォーマルに近い。

二つの値札を並べてみた。
マフラーと帽子を合わせると、予算の倍以上になってしまう。
ケタが一桁変わってきてしまうのだ。
これから、クリスマス、年末年始となんだかんだで出費が多くなるこの季節に、この金額が一気に出て行くのは現役高校生のオレには辛い。
お年玉でカバーできるだろうか…。

『……うう…』

帽子とマフラーを持ったままたっぷり10分同じ棚の前でぴくりとも動かないオレを不審に思ったのか。とうとう店員の女性が遠慮がちに話かけてきた。

『どうされました?お客様何かお探しですか?』

振り返ると、顔はスマイルを形作っているものの、その目は明らかに不審者をみる目つきだった。
お探しも何も、見ればわかるだろう。
どう見ても貧乏な高校生が、商品を手に持って悩んでいるのだ。
金額以外で悩んでいるわけがない。
だが、どうしてもその帽子とマフラーが気に入ってしまっているオレは、何でも無い振りをして店を出るのは嫌だったし、店員に変な奴扱いされたままなのも嫌だったので、
正直に話す事にした。

『あ…いや…あの弟の誕生日プレゼントなんスけど…その…予算が…』
『あら…』

店員のおねーさんは『ふふ』とおかしそうに笑う。
すいませんね、貧乏で。
だが、オレが不審者では無いとわかってくれたようだ。

『そちらの帽子とマフラー…新商品で、今日入荷したばかりなんです。そのお色はとても珍しいから…』

すぐ無くなるとでも言いたいのだろう。
いっそマフラーだけ先に買ってしまえばいい気もするのだが、どうしても二つセットで冬獅郎にあげたい。
コレはただのオレのプライドだ。
だが、肝心の金が足りない。
いったん帰って親父から借りる事も考えたが、家にはあの子がいる。
また振り切って出てくるのは一苦労だろう。
ケータイで親父か思うとを呼び出そうか…などと考えていたら、店員が更に話かけてくる。
あぁ…もうほっといてくれ…おれは今忙しい。

『良かったらおとり置きしましょうか?』

にこにこと笑顔を振りまきながら、店員のおねーさんが小首をかしげつつ言った。

『へ?おとり置き?』

ほっといてくれなんて言ってすんません。
そうか、そんな技があったのか。

『1週間でしたらこちらでその商品をおとり置きすることが出来ますよ』
『そうなんですか…』
『どうされますか?』

1週間…死ぬほど遊子の手伝いをして、小遣いを前借りして……なんとかなるかも…。
今日のオレの頭はずっとフル回転している。
明日にはショートしてしまうかもしれない。

なんとかなると結論づけたオレは、ずっと先程から笑顔を崩さない店員に自分が手にしている帽子とマフラーのうち、帽子を差し出した。

『あ…はい!じゃあこの帽子をお願いします』
『はい、かしこまりました。では、そちらのマフラー、お包みしますね』
『…お願いします』

そうして、なんとかマフラーのみ本日はお買い上げることが出来た。
すこしホッとした。

空っぽになった財布が少し寂しかったが、冬獅郎の喜ぶ顔が見れるかと思うとそんな事はすぐに吹き飛んだ。
可愛らしい包み紙とリボンがカウンターに出される。
それを見つめながらオレの頭の中はふわふわのマフラーに可愛らしく顔を埋めた冬獅郎で満たされていた。
いざ、マフラーを包もうとした店員がはっとしたように動きを止め、顔を上げると声をかけて来た。
やばい…にやけていたのがバレただろうか。

『良かったらこのマフラーと帽子、一緒にお包み出来るようにしておきますか?』
『あ…その方がいいか…。じゃあお願いします』

バラバラにあげるよりその方がいいと思ったオレは、その提案に乗りマフラーも一旦店に預けて手ぶらで帰る事にした。
帰ったとき何も持っていない方があいつにも隠しやすいので一石二鳥だ。
そうだ、何なら誕生日にあいつと一緒に取りにこよう。
冬獅郎がお気に入りの吹き抜けスペース辺りで一緒に包みを開けようか。

何だかものすごくうきうきした気分になったオレは、本日数度めの他人から見たらとても気持ちの悪いであろう笑みを浮かべながら帰路についた。