『お花見1』(一護、幼稚園の先生。冬獅郎、園児)

まだ少しだけ肌寒い春先。
時折吹く風が冷たくて、思わず首をすくめてしまう。

オレは毎日忙しく働いている冬獅郎の両親の代わりに、オレは幼稚園が終わった後も、冬獅郎が寝るまでの世話をしている。
だから、晩ご飯もオレと冬獅郎2人で食べているのだ。
オレ1人ならコンビニの弁当や外食ですませてしまうところを、一応オレも先生という立場にあるので、まだまだ小さな子供に変なものは食べさせられない。
幼稚園が終わると2人でスーパーへ行き、簡単に作れるものを選んで、一応ちゃんと料理をして毎日一緒に食べている。
今日はパンが食べたいと言う冬獅郎の為に、卵サンドを作ってやるつもりだった。

いつもの様に冬獅郎を連れて買い物に行った帰りのことだった。
スーパーからオレのアパートへ帰るには、休日などに冬獅郎を遊ばせるために来る公園を脇を通るのだが、今日はその公園の雰囲気がなんだかいつもと違う感じがして、ふと足を止めた。
足を止めたオレを下から冬獅郎が見上げてくる。

『どーした、いちご?』
『ん…いや…な、そだ!冬獅郎、公園よってかねーか?』

オレのほうから公園に誘うことはほとんどないため、一瞬きょとんとした冬獅郎だったが、すぐに嬉しそうな顔になり、オレの服の裾を引っ張って公園に向かって走り出した。
冬獅郎は大好きなブランコへとまっすぐに向かい、薄いプラスチック製の板に飛び乗ると、ブランコの脇に買い物袋を置いているオレを振り返って、背中を押せと催促してくる。

小さな背中をゆっくりと押してやりながら、オレは周りを見渡した。
長かった冬が終わり、少しずつ春の感覚がこの公園にも満ちていた。

(いつもと違う感じはこれか…)

首を巡らしていたオレは、さっきから感じていた感覚の原因を見つけた。
それは、ブランコの後ろにある大きな桜の木だった。
そういえば、2~3日前にテレビで気象予報士が桜の開花宣言をするのを観た気がする。

(もう咲きそうじゃん)

郊外にあるこの町は、都内より開花が少し遅れているようだが、もう間もなく咲きそうだ。
小さなつぼみから、ピンクの花びらが覗いている。

『冬獅郎、今度お花見しような?』
『おはなみ?うん!』
『ほら、もうすぐここの桜も咲くぞ?つぼみがピンクになってる』
『え?どれ?どこだよ?』

冬獅郎は、ブランコに乗ったまま首を後ろに向けて、桜の木をみようとしたが、小さい冬獅郎からは枝が遠くて見えないようだ。
オレはブランコをとめて、冬獅郎を抱き上げて桜の木の下へ行き、低い枝を探してつぼみを見せてやった。

『ほら、見えるか?ちょっとだけピンクになってるだろう?』
『あ!ほんとだ!これ明日さくの?』
『どうかなあ…?さすがに明日は無理かもしれないな』
『いつさくんだ?』
『きっと来週の休みにはこの木は満開だぞ?』
『まんかい?』
『このつぼみがぜーんぶ咲くんだよ』
『ぜんぶ…』

冬獅郎はこの茶色いつぼみが全部咲くというのを、どうやら想像が出来ないらしく、つぼみをじっと見たまま難しい顔をしている。
手を伸ばしてつぼみをつついたりしている。

『また咲き始めたら見に来よう?今日はもう冷えてきたし、帰って部屋で遊ぼうな。メシも食わなきゃだしさ』
『えー…まだブランコ!』
『また明日だ。だってお前こんな薄着じゃ寒いだろ?』

冬獅郎は幼稚園のコートが重いと言って、あまり着たがらず、今日は制服にマフラーだけだ。
手が冷たくなっている。
だが、まだ遊びたい冬獅郎はオレを恨めしそうに見つめ、オレの腕から降りようとした。

『やだ!さむくないもん!…ふぁ……くしゅっ…』
『ほらほら、風邪ひいちまう』

やはり冷えてしまっているようだ。
可愛らしいくしゃみをして、鼻をこすっている。

オレは、まだ少しブランコに未練がありげな視線を送っている冬獅郎を抱えたまま、公園を後にした。
夢中になっていた遊具から離れると、途端に寒さが襲ってきたのか、冬獅郎はオレの首にしがみついてきた。

『帰ったら卵ゆでるから、冬獅郎は卵の殻剥くんだぞ?』
『たまご!オムレツ?』
『違うよ…お前パン食いたいんだろ?卵のサンドイッチ』
『おう!サンドイッチ!』

卵と聞いてご機嫌になった子供は、自分で歩くと言い出し、オレを先導するように可愛らしくとてとてと歩いている。

来週は弁当とお菓子をもってお花見に来よう。
大きな花見の名所もいいが、小さな公園で静かに花見をするのも悪くない。
それに小さい冬獅郎が迷子になっては困るから、あまり広い花見会場では大変そうだ。
やはり、この公園に来よう。
それとも少し足を伸ばして、もう少し桜の多い公園にしようか…。
でもこいつにとっては、桜の花より団子ってとこかな…?

可愛く鳴った冬獅郎のおなかの音を聞きながらオレは苦笑した。