『オレの初恋1』



どうしてオレが冬獅郎のことを好きになったかなんて未だにわからない。
気がついたら『好き』だった。
それが単に友人や家族を想うように好きなのか。恋人のように好きなのかさえ初めはわからなかった。

いつ何がきっかけで好きという感情が生まれたのか全然覚えがないし、いくら考えても明確な答えは出そうにない。

最初は気になる程度のもんだったと思う。

死神達の戦闘集団の中に、ひと際目立つ小さな子供。
最初見たときは正直驚いた。
(後でよくよく考えたら、ピンク頭の幼女もいたというのに思い当たったが…)

初めて見た彼は小さくて、細っこくて。
そしてとんでもなくきれいな髪きれいな顔立ち。
中でも目立っているのは、碧翠の美しく大きな瞳。

出会ったのは、オレが迷子になった四番隊の救護詰所でのこと。
おれも結構な怪我をしていたので、半ば強制的に四番隊で治療を受けさせられていた。
オレみたいな特殊な死神に、穏やかで慈愛に溢れているように見える四番隊の隊長が興味を示したとの情報もあったが。

彼も大けがをして、この総合詰所の個室に入院をしていた。
彼は右肩を深く斬られたそうで、包帯をぐるぐる巻きにされて個室のベッドの上で不機嫌そうに外を見ていた。

『……子供?』

と、うっかり声に出してしまった。

本当に小さな呟きだったはずだが、しっかり彼の耳には聞こえていたようで、ちらりと振り返ると大きな目を吊り上げて思いっきり睨まれた。
美しい瞳に気後れしながらも、なんとか微笑んで軽く挨拶をしてみたが、完全にシカトされたのを覚えている。
気づけば辺りの気温が下がっていたなと、今になって思う。
その時はそんな事にも気づかずにじっと彼を見入ってしまった。
オレに向けられた背中があまりにも小さくて、頼りなくて、目に焼き付いた。

次の日、彼の事が気になったオレはついつい気になってもう一度彼がいるはずの個室を覗いてみる事にした。
そこには乱菊さんがいた。
大人といると、よけいに小さく見える彼。
昨日と同じ小さな体と、きれいな髪ときれいな瞳。
そんな姿に似合わない眉間の皺。
彼に楽しげに話しかける乱菊さんの話を聞いていて気づいたのだが、彼女は彼に敬語を使っていた。
乱菊さんは副隊長だったはずで、その彼女が敬語を使うという事は彼は副官以上の存在という事かとまたまた驚いた。

オレが病室を覗いている事に気づいた乱菊さんが中へ招いてくれた。
そして、彼の名前を聞いた。
普段はとても冷静な行動と立ち居振る舞いだということ。
そして数多くの部下を従える隊長であること。
更には百年に一度の天才だともいわれていること。
乱菊さんが、得意げに話すのをオレは真剣に聞いていた。
興味なさそうにそっぽを向いていた彼に向かってオレは感心した言葉をかけようとした。

『隊長なのか。ほんっとすげーな…お前子ど…』
『オレは子供じゃねぇ!とっとと出てけ!』

うっかり俺の口から出そうになった単語に、すぐさま反応を示した彼は眉間の皺をさらに増やして怒鳴ってきた。
あっけにとられたが、後に乱菊さんに『隊長らしいわね』と言われて別に嫌われた訳では無いことにほっとしたのを覚えている。
それから乱菊さんに、いろいろ聞いた。
好きな食べ物だとか、普段はどんな話をするのかだとか。
だんだんと冬獅郎のことを知るうちに深く知りたくなって行ったのは事実。
それはそうだろう。
あんな、見た目がオレの妹よりも小さいまるで小学生が、小難しい顔をして仕事をこなしたり、自分よりもだいぶ年上の死神達に的確に命令をだしている姿はなかなか想像できないだろう。
そして、彼はあの体からは考えられないほどとんでもない霊圧を操り、卍解まで出来るというのだ。

オレは乱菊さんや他の死神から話を聞いたり、遠目で見ていたりするだけでは段々と物足りなくなってしまった。
そして、彼に少しずつ声をかけたり、ちょっかいを出したりしてみるようになった。

聞けば、あの戦いが終わってから彼は救護詰所に入院をして治療を受けているらしいのだが、一度も食事をしようとはしないらしい。
あまり深くは聞いていないが、どうやら精神的にもかなりのダメージがあったようなのだが。
でも、そんな彼を見てられなくて、なんとか元気にしたくて、オレは足んない頭でいろいろ考えた。
そして、四番隊の死神に頼み込んで、彼の分と自分の分の食事を作ってもらい、彼の許しを得ずに勝手に個室に運んで一緒に食事をしようと言ってみた。

ま、あっさり断られたわけだが。
だが、聞いていた彼の性格を利用して負けず嫌いな所を刺激するようにからかうと、無言で聞いていた彼は俺から奪うようにして箸を引っ掴み、不器用に箸を使って少しだけ食べてくれた。
オレは自分の分をあっさり平らげ、彼の残した分も軽く胃袋に収めた。
呆れたようにこちらを見る彼。
初めて見る表情のどれも新鮮で嬉しくて、思わずこぼれてしまった俺の笑みに彼は一瞥をくれると、手を払いながら出て行けと言われた。

冷静沈着だという彼は、かなり怒りっぽいところもあるらしい。
他人から子供扱いされる事が多いからなのか、だいぶ背伸びをして無理しているようだ。
そんなところも今となっては可愛らしいが、当時オレの目には痛々し映った。

そこまできてオレは、この少年に興味だけでは無い他の感情が生まれつつある事に気がつき始めた。
だが、その時点ではただ純粋にこの小さな死神に興味があるだけだと信じようとしていたし、かすかに感じる新たな感情からは目を背けていた。
だって、オレはもうすぐ現世へと帰らなくてはならない。
ただでさえ仲間となったルキアや恋次、他のみんなとも別れがたいのにこれ以上辛い想いを抱えて帰りたくはなかったからだ。

オレが現世に帰る日となった。
彼の怪我は治ってはいないようだったが、無理して仕事に復帰しているというので十番隊まで挨拶をしに会いに行ったときだった。
初めて会って以来、話かけては怒鳴られるかシカトされるかだったのに、オレが『現世に帰る』と伝えると、彼の体から発せられる澄んだ霊圧にはっきりわかるほどに動揺が感じられた。
はっとして彼の顔を見たがその表情にほとんど変化はなくて、気のせいだったのかとも思った。
だが、いよいよオレが背を向けてその場から離れると、その霊圧の揺れ具合が激しくなり彼の動揺が気のせいでは無いことをオレに知らせた。

慌てて振り向いたオレの目に映ったのは、表情こそ全く変えてはいないものの握りしめられた小さな拳と揺れ動く美しい瞳。
次にとった自分の行動にオレは自分で驚いた。
彼の小さな体を椅子からはがし、全力で抱きしめていたのだから。
自分の行動に心底驚き、きつく抱きしめてしまった体を離して後ずさった。
そしてオレは、怒鳴られるか殴られるのを覚悟して思い切り構えた。
だが、目の前の彼はうつむいて黙ったままだった。

『ごめん』と何度も謝ったオレに、『ばかじゃねぇの?』と小さく消え入りそうな声で返してきた。
そのときのオレは、抱きしめてしまったことに対しての『ばか』という意味だと思っていたが、実際は、『なんでお前が謝るのか』ということだったらしい。
その真実を知ったのは、オレとあいつが『恋人』になってから。