『触り心地1』

オレが先遣隊を率いる、という形でこの町にきてから、暇を見つけては一護の奴はオレに会いたがり、あちこち連れ回されたり、一護の部屋に呼ばれたりしていた。
そうそう暇ではないのだが、大きな声では言えないが、…というか、口が裂けても言葉には出したくないが、一護に会えるのはオレにとっても嬉しくて、なんとかポーカーフェイスを保ちながらも、心は多少…、いや、オレにしてはかなり踊ってしまっていた。

別に外に行っても軽く食事をしたり、一護の買い物につきあったりするくらいだったし、一護の部屋に行っても、他愛のない話をするか、お互いの死神業務について、話し合ったりするくらいだったが…。

今日は一護に呼ばれ、午後すぐに訪問する予定だったが、引き継ぎをする為に自隊の副官を探すのに、とんでもなく苦労してしまった。
やっと見つけた時の彼女の第一声は

『たいちょーう!コレあたし似合いますー?』

だった。
まぁ、見つけたのが、デパートと呼ばれる場所だったので、ある意味予想された言葉ではあったが、オレのため息はあと何年途絶える事がないのだろうか…。

そんな事を思い出しながら、約束の時間からだいぶ送れてしまったため、連絡をしようとも思ったが、そんな事をしてはなんだかオレが一護に早く会いたいみたいでオレ自身のプライドが許さなかったから、やめておいた。
だが、身体は正直で、一護の家に向かう足は自然に早くなってしまう。

珍しく、一護の奴が昼寝なんかをしていた。

いつもの様に、窓から黒崎家に侵入…いや、お邪魔したオレは、まだまだ寒いこの時期に毛布もかけずに、ベッドの上で熟睡する一護をしばらく眺めていた。
オレが入って来たのにも気づかず、ぐーぐーと寝息を立てている。

『アホ面だな…』

だらしなく開けっ放しの口元。
そう大きくもない一人用のベッドに、大の字。

よほど疲れているのだろうか…。
そういえば期末テストがどーだとか、何日か前に騒いでいた気がする。
そのテストが終わったのだろうか…。

ゆっくり会うのは久しぶりだったので、少なからず楽しみにしていたオレだったが、どうやらタイミングが悪かったようだ。
やはり、事前に連絡をするべきだったかと考えたが、、そんな…恋人みたいな真似はしたくなかったし…。
なんだかむしゃくしゃしながらも、オレはしばらくの間、とても間抜けな一護の寝顔を覗いていた。

一護は普段から、オレがいつ、どんな時間に突然現れても、いつも笑顔で出迎えてくれる。
宿題をやっていたり、本を読んでいたり、音楽を聴いていたりと様々だが、どんな時でもすぐにオレを優先にしてくれて、それは嬉しいことなのだが、すこし恥ずかしい。
悪いとは思いつつも、やはり連絡してから来るなんて、恥ずかしくて出来なかった。

ぼうっとそんなことを考えて、窓枠に座ったまま一護を見下ろしていたオレは、外から吹き込んでくる風が少し冷たいことに気づいた。
雨でも降り出すのだろうか、空気が湿っている。
直ぐさま部屋の中に滑り込み、寝ている一護を起こさないように細心の注意を払いながら、後ろ手に窓を閉める。
そのままベッドの横に立ち、未だ起きる気配もない一護の寝顔を、じっと見つめた。

一護のオレンジ色の髪。
オレはその夕焼けと同じ色が大好きだった。
一護のやさしさ、あたたかさが伝わってくる色。
思わず手を伸ばし、オレはそっとその髪に触れた。
少し固めの髪を指先に絡ませて遊んでいると、一護がかすかに身じろいだ。
くすぐったかったのだろうか。
いつもは一護がオレの髪に指を絡ませながら、オレの髪の障り心地が好きだと、綺麗な銀色だと、微笑みながら言ってくれる。
でもオレは、一護のオレンジ色の方が好きだ。

しばらく遊ばせていた指を離し、ついでに一護の頬を指で軽くつついてみた。

『うー…』

小さく唸りながら、あっちを向いてしまった。
そして、何も身体にかけていないせいで、寒いのだろう。
一護は両腕を組み、広げていた足も丸めて、今度はゴロンとこちらに寝返りをうった。

『ったく…風邪ひくぞ…』

オレはぶつぶつ文句を言いながら、一護の横にたたんで置いてあった毛布を広げ、一護の体にかけてやった。
そして、その場に座りベッドに寄りかかる。

『さてと、どーすっかな…』

せっかく来てやったというのに、オレを呼んだ張本人の一護は寝ているし、かといって起こすのもためらわれた。
毛布の端に顔を埋めつつ、上目遣いに一護を見た。
そうして、なんだか一護の幸せそうな寝顔を見ていると、こっちまで眠くなってきてしまった。
床に座った格好のまま、ベッドに頬を乗せておれはいつの間にかうとうとと眠りに落ちてしまった。

右手に一護の髪に触れながら…。