『触り心地2』

『ん…ぁ…あれ?あ、オレ寝ちまってたか…』

期末テストが終わったという開放感で満たされていたオレは、ここ数日の詰め込み式の勉強で、かなり疲れがたまっていたらしく、帰宅したオレは『おにいちゃん、おつかれさま!』と遊子が作ってくれたゆず茶を飲んで部屋で一息つき、ベッドに横になった瞬間眠ってしまったらしい。

『あれ?でも…毛布…』

自分の体にかけられた毛布。
ベッドに横たわった途端に眠ってしまったはずなのに、毛布がしっかりかけられている。
かけた覚えはもちろん無いのだが、寝ぼけながらもしっかり自分でかけたのだろうか?

そんなことを考えながら、ふと何かの気配を感じたオレはそっと息をひそめた。
自分以外の息づかいが聞こえる。
しかも、それはオレの聞き慣れた、可愛らしい寝息…。

『と…冬獅郎!』

思わず叫んだオレは、あわてて手で口を押さえた。
いつ来たのか、そして何でここで寝ているのか…。
床に足を投げ出して、頭をベッドに凭れかけさせ、すやすやと穏やかな寝息を立てている。

『冬獅郎…そういえば…』

オレはこのテスト期間、冬獅郎に会うのを我慢していた。
あいつもそれなりに忙しいし、テストの合間に少しだけ会うなんてのは、もどかしくて、それならばいっそテストが終わるまでは会わず、煩わしいプリント達との格闘が終わってから思いっきり会おうと思ったのだ。

今日の期末試験最終日の午後、オレは冬獅郎を家に誘っていたのだ。
昼前に学校は終了するので、一緒に昼飯を食べて、どこか遊びに行くか、部屋でゆっくりしよう…なんて、徹夜で勉強しながらニヤついていた。
もちろん忘れていた訳ではないが、疲れは自分の想像以上だったらしい。
冬獅郎が来た事にも気づかず、眠っていたのだ。
普段なら蹴られるか、殴られるかして、この乱暴な恋人に叩き起こされるのだが、元来とても優しい冬獅郎。
すっかり眠ってしまっているオレを起こすこともせずに、わざわざ毛布までかけてくれて、オレが起きるまで待とうとしてくれていたのだろう。

そして自分も眠ってしまったのか…。

一連の冬獅郎の行動を想像したオレは、あまりの可愛さと冬獅郎の優しさに顔がほころぶ。
右手はオレの枕元に伸ばされていて、左手はきゅっと毛布の端を握っている。
ベッドに乗せられている頬に落ちる長いまつげの影。
少し開いた小さな唇がたまらない。

しかし、このままでは冬獅郎が寝苦しいだろうし、寒いだろうと思ったので、オレは最新の注意を払ってベッドからそっと降り、更に息をひそめるようにして、冬獅郎を抱き上げ、今までオレが寝ていたベッドに横たえてやった。

冬獅郎には大き過ぎるサイズの、オレの毛布をかけてやりながら、その寝顔のあまりの可愛さにオレの頬が熱くなるのがわかる。
普段はしかめっ面で、憎まれ口ばかり叩く冬獅郎だが、こうやって寝ていると本当にただの子供に見えて、愛おしくてしょうがない。
そんな、ただの小さな見た目が小学生のこいつが、オレの恋人だなんていまだに信じられない。
そもそも、オレはこいつのどこに惚れたんだろう…などと考えながら、愛しい寝顔を見つめる。
我が儘だし、気まぐれだし、乱暴だし、すぐに怒る。
でも、時折見せてくれる、それらを全て忘れさせるほどの冬獅郎の優しさに、オレは心を奪われた。
それに、普段の我が儘も乱暴な行動も、全てオレだけに向けられているというのも最近知った。
それを知ったオレの喜びは、それこそ異常なほどだ。
誰にでも向けられる冬獅郎の優しさよりも、オレにだけ思いっきり甘えてくれている結果がそうなのだから、嬉しくない訳が無い。

オレは、お気に入りの冬獅郎の銀髪に指を絡ませて、柔らかい髪質を楽しんだ。
今は部屋の電気もつけず、カーテンも閉めているので普通の銀色だが、日の光に照らされると、キラキラ輝いて、碧い瞳の色のせいもあってかまるで天使のようだった。
とても柔らかい冬獅郎の髪は、寝るとすぐに寝癖が付いて、それが冬獅郎の子供っぽさをアピールしているようで好きだった。
本人にとってはそんな可愛い寝癖も、許せない程恥ずかしい事らしく、すぐに髪を整えてしまう。

しばらくそうやって指に髪を絡ませ、巻き付けるようにいじっていると、冬獅郎の睫毛が震え、うっすらと開いたまぶたの中から、綺麗な翡翠の瞳が揺れているのが見えた。

『いち…ご?』
『あ…ごめん…起こしちまったか?』
『ん…』

寝ぼけている時の冬獅郎は本当に可愛らしい。
少し舌足らずな言葉の発音も、一生懸命オレの姿を追う揺れる瞳も。

冬獅郎は小さな手で目をこすり、必死に覚醒しようとしているが、どうやらこの睡魔は相当強敵らしく、冬獅郎は諦めたように手を降ろした。
とろんとした目でオレの顔を見てはいるが、オレの姿をとらえているかどうかは怪しい。

『まだ寝てていいぞ?』
『ぅん…』

そんな可愛い仕草に微笑み、冬獅郎の額を撫でながらそう言ってやると、薄く開かれていたまぶたが、再び完全に閉じてしまった。
続けて小さな寝息。
安心したような表情で眠る子供。
ふと見ると、小さな手がオレの服の袖をしっかり握っている。

『オレももっかい寝よう』

オレの袖を掴んだまま、再び眠りに落ちた冬獅郎の手を引きはがすのもなんだかもったいない気がして、オレはすやすやと眠る冬獅郎の横に滑り込んだ。
朝メシを食って以来、何も与えていないオレの胃袋が、空腹を訴えるように鳴ったが、それはとりあえず無視した。
二人で晩飯をたらふく食えばいいや、と決め込んで、腹の虫を黙らせるように軽く殴った。

『うあぁー…すっげー気持ちいいー…』

二人分の体温ですっかり温まった毛布は、とても心地よかった。
更に、冬獅郎の身体からは何とも言えない甘いようなとてもいい匂い。
オレの腕にすっぽり収まる体をそっと抱き寄せ、銀色の柔らかな髪に顔を埋める。
さっきまでぐっすり眠っていたというのに、オレはまたしてもすぐに眠りに落ちてしまった。

 

しっかり一護の服を掴んだまま離そうとしない冬獅郎。
そんな冬獅郎を、何よりも愛おしそうに抱きしめる一護。
二人だけのとても幸せな昼寝。
静かな静かな部屋に、二人の心地よい寝息だけが響く。

二人が起きるのは、まだ時間がかかりそうだった。