『イブイブデート1』

『なぁ冬獅郎 今日夕方から空けといてくれよ!』
『あん?なんでだよ?』
『いいからいいから』
『…なんだよ…まぁ急用が入らなければな』

勝手知ったる一護の部屋で読んでいた本を閉じて、一護の唐突な質問にオレは適当に答えた。
どこかに出かけようというのか、夕方に駅で待てという。
どうせ出かけるなら昼間の方がいいのに…なんて思いながらもう一度本を開いたオレに一護が年を押すように言う。

『冬獅郎、時間に遅れるなよ!』
『わかってる』

再び適当に答えたオレに、頼まれものの晩飯の買い出しにいくと言って一護は部屋を出て行った。
夜はオレと約束したから、昼間は家族サービスでもするんだろう。
忙しい奴だ。
だが、オレは一護のそういうところが好ましいと思っている。
時計を見ると、まだ14時を回ったところで、約束の時間までにはまだ少しあったので、読みかけの本をもう少し読み進めることにした。

一護に指定された時間の5分前に着いたオレは、周りを見渡し一護がまだ着ていないことを確認すると、駅の柱に背中を預け通りの人を眺めて待つことにした。

『冬獅郎!』

名前を呼ばれ、振り向くと一護が嬉しそうに走ってくる。
遅刻しないようにだいぶ急いだのか、かなり息があがっている。
急いだかいがあって、1分前に到着だ。

『どこに行くんだ?』
『あぁ、前に連れてっただろ?お前がフリーフォールのやつでビビっちまった…』
『!べつにびびってねぇよ!…ってかこんな時間から行くのか?』

いくらその遊園地が夜遅くまで開いているからといって、今から行ってもそうそう遊べないだろうし、外はもうだいぶ冷えてきている。
それに、知識でしかしらないが、現世での特別な日『クリスマスイブ』とかいうやつが今日だったか?と一瞬思ったが、今日はまだ23日。
明日になれば、恋人達が共に過ごし、愛を語らうとかなんとか…。
別に一護と恋人だとは思って…いないが…、明日は一護はオレとではない誰かと予定でもあるのだろうか…と少し不安になってしまった。
そんな自分がすごく恥ずかしくなってしまい、思わずこちらをみて微笑んでいる一護から目をそらしてしまう。

とにかく行こうぜ!とオレの手を引っ張り、電車へ乗った。
先ほど編なことを考えてしまったせいか、なんだかまともに会話も出来ず、目的の駅に着いてしまった。
外に出るとそ空はそろそろ夕焼けが綺麗に見れるであろう時間になっていて、既に遊び終わって返る人々もぞろぞろ駅へと吸い込まれて行く。
ぶらぶらとテーマパークの入り口へ向かいながら、一護が何か話しかけてきてはいるが、オレはちゃんと答える気にもならずに『うん』とか『あぁ』とか素っ気なく相づちをうっていた。

どうせ行くなら前みたいに朝から連れてきてほしかった。
たくさん乗り物に乗ったり、色んな物を見たりしたかった。
そう思ってふと一護を見ると、なにやらやけに嬉しそうな顔をしていて、憎まれ口の一つも言うことができなかった。
一護がチケットを買っている間、オレはあたりを見回していたが、暗くなってきたからなのか、随分と明かりの数が多い気がした。
以前のことは良く覚えていないが……オレとしたことが、初めて来た遊園地ではしゃぎすぎてしまったから…。

一護が戻ってきて、チケットを持たされ中へ入る。
俺たちの他にもこんな中途半端な時間から入る人は結構いるようだ。
そんな疑問に一護が答えてくれた。

『夜からだと少しチケットが安いんだよ。まぁ割高だけどな』
『ふぅん』
『でも、今の期間は特別人が多いかもな。ほら!冬獅郎見てみろよ!』

言われて、オレは顔を上げた。

『うわぁ…』

前に来たときとは全然ちがう風景だった。

一面がクリスマスカラー一色に彩られていて、赤や緑や金のリボンやオーナメントがあちこちに綺麗に飾り付けられていた。
クリスマスツリーが大きいのから小さいのから、たくさん置いてあってどれもまだ沈んではいない夕日の光を受けてとてもきれいだ。
以前とは全く違った場所に思えるほどに飾りつけられていることに、オレは不思議に思って一護に聞いてみた。

『なんか前と違うな…』
『あったりまえじゃん?クリスマスだぜ?』
『そ…うなのか?』
『そーなの!』

よくわかんなかったが、現世で生きている人間がそういうのだから、そういうものなのだろうと無理矢理納得することにした。

『まだちょっと早いからなんか乗るか?』
『ん?あぁ…なんでも…』

素っ気ない返事をしながらもやっぱり楽しげな雰囲気と、秋に一度来たときの楽しさが思い出されてわくわくしてしまう。
一護が『まだ早い』とか言っていたが、何のことなのか聞いてみようかと思ったが、オレは既にあちこち見て回りたくて、うずうずしていたのでどうでもよくなってしまった。
一護がじっとオレを見ていることに気がついて、急にはずかしくなり、オレは照れ隠しに声のトーンを落として、どうでもいい質問をした。

『人が多いな…』
『まぁな…でも明日とかはやっべーんだぜ?すっげー人で入れないってのもあるらしいから』
『こんなに広いのに?はいれないのか?』
『明日はイブだからな』

カップルだらけだぜ?なんて笑いながら言う一護。

そういえば町もやたらとカラフルな電球がいっぱいついてて派手に飾り立てられてた気がする。
よくわかんなかったし、興味もそれほど無かったのできにして見ていた訳ではないが、やはりこちらではクリスマスとは特別な日であるらしい。
それなのに、一護はオレを今日というイブでも何でもない日に連れてきているという事実にオレは少しだけ寂しくなってしまう。
だが、せっかく一護が連れてきてくれたのだから、そんなくだらないことは考えるのをやめて、オレは素直に一護に着いて行くことにした。

一護に連れられ、だいぶ歩いた。
夕日がとても綺麗で、その柔らかな光に照らされた建物や、飾りが目に楽しくて、歩いているだけで楽しかった。
ふと一護が立ち止まってオレを振り返り、前を指差した。

『あれに乗ろうか』
『あぁ…なんでもいい』

歩いている途中でいくつか乗り物の前を通ったが、どれもは混んでいた。
一護がのろうと提案したものは、比較的空いているようだった。二人でしばらく並んで、やっと乗り場まで着いた。

水の上をくるくる回ったり後ろ向きに進んだり 変な乗り物だった。
乗り終わったあとは少し足がふわふわしていた。
一護に楽しかったかと聞かれたので、『まぁな』と答えると、素直じゃないなと言われた。
楽しかったけどな…確かに…。

『冬獅郎ー行くぞ』
『どこに?』
『こっちこっち』

またしても一護に引っ張られて歩き出す。
まぁオレには右も左もわからないので、連れられて歩くしかないのだが…。

今度はなんだか奇妙な建物の中に入って行く一護。
階段をぐるぐるのぼり、小さな塔みたいなところを抜け、更に上に上がり…。
いったいどこまで行くのかと、不思議に思っていたらようやく一護の歩みが止まった。

『ここでいっか』
『なんだよここ』

狭い塔のような建物の中小さな窓があって、その窓は背の低いオレでも覗ける、お子さまの高さに合わせた場所に作られたようだ。
自分の背が低いことをわざわざ見せつけられたようでちょっとむかついてしまったが、何か目的があってきたのだろうと、一護に質問をしてみる。

『なんか見えるのか?』
『ちょっとここにいろよ?どこにもいくなよ?』
『あ!おい!一護!』

質問には答えないで、一護は急いだ様子でどこかへ走り去ってしまった。
一人残されたオレは仕方なくため息をつきつつ窓を覗いてみた。
冷たい風が頬をなでる。
少し首をすくめながら、見渡してみると、下には大きな湖のような、海を模して作られた水たまりがあった。
向こう岸には大きな建物や、行き交う人々が小さく見える。
更に向こうには以前オレが、情けないながらもびっくりしてしまった下に落っこちる乗り物。
ちょっと悔しくなって、目をそらし空を覗き混むと、半分以上が群青色に染まってきていてかすかに星も見えてきた。
遥か向こうに見える本物の海は沈みかけた夕日の光で不思議な色に輝いている。

(おっせぇーなぁ一護)

寂しいとか言う訳ではないが、他にもこの辺りにたくさん人がいて、オレのいる小さな塔も、さっきから何度も覗かれては去って行かれてなんだか落ち着かないのだ。

(……』

外も見飽きてしまったので、窓から顔を引っ込めオレはその場に座り込んだ。
塔の中と行っても真冬であることにかわりは無いので寒い。
手袋をしてこなかったので手がとても冷たくなってしまっていて、息を吹きかけてみるが、あまり効果はなかった。
一護に動くなと言われたし、動き回ったところで地図もないし、なにげにオレはたまに方向がよくわからなくなる…。
小さくため息をついて、少しでも寒さから見を守ろうとうずくまってきっとしていると、どたどたと聞き慣れた足音が駆け上がってくる。

『冬獅郎!ごめん!すっげー混んでて…』
『おっせぇ!ドコ行ってたんだよ!』
『ごめん!しばらくここにいるから寒いだろうと思ってあったかいもん買ってきた』
『……なんだよ…別に食ったりするだけならここじゃなくてもいいじゃないか…わざわざこんな寒いところで…』

オレがぶつぶつ文句を言っていると、一護が買ってきた食べ物をいったん足下に置きながらやんわりと言い返してきた。

『ここがいいんだ それに離れたらとられちまうから』
『何を?』
『ここ』

こいつはなに言ってるんだ?と首を傾げつつ、オレは差し出された暖かいココアに意識が向いてしまう。
すっかり冷えてしまった両手で包み込むようにココアを持つと、じんわりと温かさが伝わってきた。

『あったけー』
『ごめんな ほら食いもんもたくさんあるから』

昼から何も食べていないのもあって、オレの意識はすっかりそちらに向いてしまう。
目の前に広げられるいろんなおやつ。
ケーキみたいなのや、ドーナツみたいなやつ。
サンドイッチやポップコーンもあって、二人では食べきれないのでは…という量だった。
だが、二人ともものすごく腹が減っていたので、あれもコレもと半ば奪い合うようにして食べた。
腹が満たされて、少し体が暖まった。
一息ついていると、一護が食べ終わった空の容器をまとめた。
オレも少しだけ手伝った。

『ゴミ捨ててくる』
『あ…うん』

一護がゴミを捨てに行っている間何気なく立ち上がって窓を覗いてみた。
眼下には、先ほどまでとはうって変わって、とても幻想的な風景が広がっていた。