『幼稚園児のお正月3』

年越しまであと1時間
大して面白くもないテレビを流し観しつつ

『年越しそば出来たよ!』
『お 冬獅郎!そばだぞ』
『えへへ 頑張っておっきなエビ天つけちゃいましたv』
『えびだ…』

遊子がこたつにそばとエビ天を並べていく

『あ みんなあったかいおそばで良かった?冷たいのも出来るよ?』
『いやいいよ遊子 お前ずっと働きっぱじゃん もういーよ』
『そうだよ遊子!片付けはいちにいとおやじがやるから あたしととーしろーと
遊んでよーぜー』
『あはは じゃあそうしよっかな』

ほんとに遊子は働き者だ
オレも頭が上がらない

ほかほか湯気を立てているおそばとエビ天を前に
冬獅郎は興味深々

『あ 冬獅郎エビちっちゃくしてやっから待てよ?そばも熱いから待って』
『エビおっきいのがいい』
『お前じゃ食えねえから…』
『いい!』

ぐさっとフォークをエビに突き刺して
ちっちゃい口をおっきく開けて

『あー あぐ』
『あーあー…』

一生懸命エビと格闘を始めた
こたつ布団に衣がぼろぼろぼろぼろ……

もういい 後でまとめて掃除する

諦めて冬獅郎の為にプラスチックの小さい器にそばを取り分ける

冬獅郎はまだまだエビと戦い続けている

(天つゆとか…いらないのか…ま いっか)

親父や妹達はそんな冬獅郎を緩みきった顔で眺めながらそばをすすっている
平和な奴らだ…
世話は全部オレなんだから…
でも他の奴に世話させる気もないけどな

『冬獅郎 そばも食べないと…』
『…むぐ ん』
『ほらエビ持っててやっから』

冷めて食べやすくなったそばを冬獅郎の前に出してやる
こいつはまだ箸がうまく使えないので(使う気が多分無い)
もう一個フォークを出してやる

ずるずるそばをすすり出したが2口くらいで飽きたらしい…

『いちご エビー』
『もうそばいいのか?』
『えびくう』
『それだけちゃんと食え そしたらエビやるよ』
『う…』

子供は頑張った
小さな器がきれいに空っぽになったとこで
エビを冬獅郎に返す

遊子が作ってくれたエビ天は普段お目にかかれないくらい大きくて
内心(子供にはもったいねえ…)とか思いつつ
オレもありがたくいただいた

『いちご』
『ん?どした?』
『歯 いたい』
『歯?』
『は!いたい!』

冬獅郎が歯が痛いと言い出す

『あーんしてみ?』
『あーん』

前歯にどうやらエビの殻がはさまってる

冬獅郎の手元をみるとしっぽにかじりついた形跡があった

『エビの殻がはさまってるぞ?』
『から?』
『しっぽ噛んだだろ?』
『かんだ』
『それがはさまったんだな』
『しっぽとれる?』
『取れるよ 爪楊枝持ってくる』

爪楊枝を探しながら冬獅郎を振り返ると
ちっちゃい手を口に突っ込んでなんとか殻を取り去ろうとしている
あぐあぐ頑張ってはいるが取れないらしく 手がよだれでべたべただ…

布巾もいるかノ

冬獅郎のとこに戻ってまず手を拭いてやる

『ほれ口開けて』
『それなんだ?』
『爪楊枝だよ コレでほじくんの』
『やだ!』
『やだってお前…そうしないととれないだろ?』
『やだ!やだ!』

あー…針さされるみたいでこわいんだな…

前に予防接種で注射を目の前にした冬獅郎が
疲れて倒れて眠ってしまうまで暴れたのを思い出したノ
いや…あれは大変だった…
次の予防接種どうすっかな…ってか今後風邪とかの注射も不安だ…

…じゃねえ…
今は爪楊枝だ

『大丈夫だって刺したりしねえし 注射じゃないから』
『やだー…』
『すぐ終わるから』
『ちゅうしゃのときもいちごそういった!うそついた!』
『注射だってすぐ終わったろ?ってかお前寝てたじゃん!』
『いたかった!ちがでた!』
『コレは血とかでねえし 注射じゃねえって言ってるだろ?』
『やだ…』

あぁ…涙目だ…
長期戦を覚悟する

『冬獅郎このまんまでも歯痛いだろ?取れば痛くないぞ?オレ爪楊枝使いだからな
すーぐとってやるぜ?痛くもしねーし』
『…ぐすっ…』
『あーでも 泣いた子には痛くなるようになってんだぜ?そーゆー魔法がかかってんだ 爪楊枝には』
『!な ないてねえ!』
『じゃあ 全然痛くなんかねえぜ?』
『う…』
『おいで?』
『…』

おそるおそる近づいてきた
優しく抱き上げて膝に乗せてやる
冬獅郎の頭を抱えてオレの胸にくっつけて

『大丈夫だよ』
『いたくねえ?』
『痛くなんかしねえよ オレなんたって爪楊枝使いだぜ?』

にっこり笑ってやる
子供は『~使い』という言葉に弱い

『あーんして』
『あー…』

そーっと口を開ける

前歯に挟まった殻を少しづつ取ってやる
さほど手間はかからない
ちっちゃい歯がとても可愛い
キスしちゃいたい…なんて危ない考えが頭をよぎる

『よし全部取れたぞ?もう痛くないか?』
『とれた?いたくねえ!』
『ほら痛くなかったろ?』
『うん いたくなかった』

元気を取り戻した等冬獅郎はピョンとオレの膝から飛び出し
オレの食いかけのエビ天をわしづかみにして

『こら!冬獅郎それ…オレの』
『エビ!』
『はぁ…やるよ…もう』

また殻が挟まってはたまらないので
エビのしっぽは先に取り除く

『しっぽ取ったらエビに見えねえな』
『エビにみえねえ』

でもご機嫌で手を油でべとべとにしながらかじりついている

その手であちこち触られてはたまらないので目が離せない

もう他の奴らはとっくに年越しそばを食い終わって片付け始めている
遊子がお茶を入れてくれている間に
冬獅郎を抱えて手を洗ってやる
石けんを着けてやると泡だてまくってなかなか洗い流さない

『ふやけるぞ…手…』

キレイキレイした冬獅郎を連れてリビングに戻り
みんなでこたつに入って年越しを待つ

もう少し

『冬獅郎 あとちょっとで来年だぞ』
『おう!』

分かってはいないだろうが嬉しそうだ