『てるてるぼうず』(一護、高校生。冬獅郎、園児)



少し肌寒い休日、外は雨。
しとしと雨の降る音が静かな室内にBGMのように心地よく流れていた。
その音に耳を傾けながら、ゆっくりとした時間の流れを楽しんでいたオレの耳に、とたとたという規則正しい足音が聞こえ始めた。
オレの聴覚は雨の音から一転してそちらの足音を捉える。
すぐに足音は不規則になり、小さい足を一生懸命動かして2階から降りる階段と格闘を始める。
最後は1段飛ばしでもしたのか、ドンと勢い良く床に足音が響く。
少し開いていたリビングのドアの隙間から、何やら真剣な表情の冬獅郎が顔を出した。
まっすぐにオレに向かって走ってくる。

『いちご!これ!これつけて』
『ん?なんだ冬獅郎?』
『これ!おれがつくったの!つけて!』
『てるてるぼうずか?これ…』

ソファで雑誌を広げていたオレの膝に飛び乗って来た冬獅郎が持っていたのはてるてるぼうずだった。

『きょうようちえんでつくったの。でもかおかくのできなかったからいまかいたの』
『…だから部屋にいたのか』
『くれよんでかいた』
『うん…』

見ればわかる…。
いつもなら『おやつ』だ『遊んで』だとオレに纏わりついてくる冬獅郎だったが、
今日は帰って来てすぐに部屋にこもって何かしていたのようだった。
珍しく静かだったので、オレは久しぶりにゆっくりとした時間を過ごしていた。
何をしているかと思えば、コレを作っていたのか。

そういや、まだ梅雨でもないのに、ここしばらくは雨が続いている。
冬獅郎も毎日のように黄色の長靴と傘というコーディネートだ。
オレも乾くことのない傘に毎日うんざりだった。

今ではほとんど見ることのなくなったてるてるぼうず。
実際に目にするのは、自分が冬獅郎と同じ位だった時か…いや、双子の妹が仲良く作っていたことも
あっただろうか…。
とにかく、記憶も定かではないくらい久しぶりに見た。

『せんせいが、これつけるとはれるってゆったんだ!』
『そうだぞ。てるてるぼうず吊るしたら晴れるぞ』
『ほんとか?じゃあはやくつけて!』
『おう。じゃああそこの窓につるそうか』
『うん!はやくはやく!』
『へいへい…じゃ、お前オレから降りろ』
『やだ』
『……』

こいつは…。
人の膝で跳ねるし、服は引っ掴んで引っ張るし、ほっとくとこのままオレの身体をよじ上り始め、飽きるまで降りてはくれない。
今だって既に興奮した冬獅郎は空いた左手でオレの服を掴み、オレの膝で足を突っ張って踏ん張るので痛いし服が伸びるのが心配だ。
しばらく無言で睨みつけていたら、案の定冬獅郎はオレの髪を掴んで肘に足をかけ、よじ登りはじめた。

『いててて!いてーよ!冬獅郎!』
『はやくつけろよー!』
『わかったから髪ひっぱるな!』

オレの髪を力任せに引っ張る冬獅郎の手を掴み、片手で小さな身体を抱えあげると、オレは窓際に寄った。
冬獅郎を抱えたままカーテンを開けると、相変わらず外は雨が降り続いていて、やむ気配もない。
ここずっと、冬獅郎大好きな公園に行けていないので、ストレスが溜まっているようだし、早く晴れてくれないとオレが困る。
外だと勝手に走り回って遊んでくれるので、オレはベンチに座ってぼけーっとしていたり、本を読んだり出来るが、
家のなかでは付きっきりで相手をしてやらないとすねてしまうのだ。
まぁ…遊び盛りの子供だ…仕方ないのはわかる。
…がオレもまだ遊びたい盛りの男子高校生なのだが…。

窓の左右のカーテンの間当たりに吊るそうと決め、その部分を指差して冬獅郎の顔を覗きながら聞いてみる。

『ここでいいか?』
『うん』
『じゃあひも結ぶから冬獅郎ちょっと降りててな』
『ん』

今度は素直に返事をして、するりと床に降りた冬獅郎は、オレの足にしがみつき、一生懸命背伸びをしてオレの手元を見ている。
そんな姿がとても愛らしい。

てるてるぼうずを紐で吊るし、軽く指でつつくと、それはゆらゆらと揺れた。
そのてるてるぼうずの顔は冬獅郎が描いただけあって、とても芸術的センスだった。
…多分オレの顔を描いたんだろう。
てるてるぼうずの頭がオレンジ色で塗りたくられていた。
頭がオレンジで、絞った首の下は緑や青だ。
てるてるぼうずのイメージといえば白なのだが、この奇妙な色の物体も空中で揺れているとそれなりに趣があるように見える。

『冬獅郎。これ、オレの顔か?』
『うん!』

一応確かめてみると、元気に肯定されてしまった。
冬獅郎にバレないように軽くため息をつきながらもう一度てるてるぼうずに視線を戻すと、冬獅郎がオレの服をくいくいと
引っぱりながら口を開く。

『だって、いちごのかみはたいようとおんなじ色だから』
『え?』
『これみたら、たいようもうれしいかとおもって』
『そっか…』

子供らしい発想にオレの頬は途端に緩んでしまう。
こいつはこんな可愛いことを考えながらこれを作っていたのかと思うと嬉しくなり、思わず抱き上げてほお擦りをし、
更に勢いで可愛らしいくちびるに軽くキスまでしてしまった。
すると、冬獅郎は無邪気に笑いながらオレの首に手を回して抱きついてくる。
もう本当にたまらないくらいに可愛い。
お互いの鼻をくっつけたり、頬をつついたりしてじゃれ合っていたが、ふと冬獅郎が小さな両手でオレの顔を挟み、まじめな顔でオレに問いかけてきた。

『なーいちご、あしたはれるか?』
『きっと晴れるよ!お前が頑張っててるてるぼうずつくったんだからな』
『ほんとか?じゃあブランコのれる?』
『乗れるって!明日晴れたら公園行こうな』
『おう!』

元気に返事をした冬獅郎を抱いたまま、オレはソファに戻って座り、冬獅郎を膝に乗せてテレビをつける。
いくつかチャンネルを変えたが、どこも夕方のニュースばかりで冬獅郎が興味のありそうな番組はやっていない。
教育系で子供向けのの多いチャンネルも、今は料理番組だった。
見たところで作れる訳ではないので、チャンネルをニュースに戻して流したまま、オレは冬獅郎の頭を撫でながら、テーブルに広げた雑誌を読むことにした。

『冬獅郎?絵本持ってくるか?』
『いちごとこれよむ!』

まだ冬獅郎には全くの意味不明であろうファッション雑誌を指差し、顔を真上に上げてオレを見つめてくる。
オレはそんな可愛い仕草をする愛しい冬獅郎のおでこにキスをすると、ページをめくるのは冬獅郎に任せた。
しばらくオレと一緒に雑誌を眺めていた冬獅郎だったが、つまらなくなってしまったのかページをめくる手を止め、オレの方に身体を向けてオレの胸に顔を埋めて来た。
良く見れば、目がとろんとしている。

『ん?眠いか?ベッド行くか冬獅郎?』
『んーん…』

いやいやと頭を振ってすがりついてくる冬獅郎。
もうその大きな瞳はほとんど閉じかけている。
オレは冬獅郎が寝やすいように、一旦小さな体を抱え直す。
するとすぐに寝息が聞こえてきた。

このまま晩飯まで寝かしておいてやろうと思い、冬獅郎の頬に軽くキスをすると、オレはそっと雑誌をめくり始めた。
雑音になっては…と、テレビも消した。
ふと、いつの間にか雨が音が聞こえなくなっている事に気づいた。
暖かいぬくもりが腕の中にいるので確認は出来ないが、雨は弱くなったか止んだらしい。
早速効果の発揮したてるてるぼうずに視線を投げると、オレンジ頭のそいつがにこりと笑った気がした。

きっと明日は晴れるだろう。