『クリスマス』(一護、幼稚園の先生。冬獅郎、園児)

今日はクリスマス。
一護が勤める幼稚園ではクリスマスのパーティをする予定で、先生たちが前の日に
教室を金銀のモールや、折り紙などで綺麗に飾り付けをしておいた。
広い部屋の真ん中には大きなクリスマスツリーが置かれ、園児達の喜ぶ姿が目に浮かぶ。
朝からたくさんのおやつと料理を用意して、はしゃぎ回る子供達用に紙の皿とコップを人数分並べる。
そしてクリスマスケーキも出され、準備は整っていた。

園児達が元気に挨拶をしながら、園内に入ってくる。
いつもと違う教室の様子に歓声をあげて喜ぶ子供達。
園児たちもみんなでプレゼントも持ち寄って、プレゼント交換もする予定だ。
楽しい楽しい一日の始まりだった。

冬獅郎は別にみんなと遊ぶのはどうでもよかった。
だが、大好きな一護先生とのパーティはとっても楽しみにしていて、プレゼントもみんなでくじ引きの交換なんかに出す気はなく、一護先生にあげようとそれはそれは芸術的な一護の絵を描いた。
絵の横には『いちご』と書いてはあるものの、どんな角度から見ても一護には…というか、人が描かれているようにはみえなかった。
でも一生懸命描いた絵。
くるくる丸めて、ママにリボンをかけてもらった。
朝、持っていくのを忘れないように、バッグの横にちょこんと置いておいた。

でも、冬獅郎がその絵を持って、幼稚園に行くことは出来なかった。
ここのところ、強い北風が続いていたせいで、風邪を引いてしまったのだ。

ママはお仕事を休んでくれて、冬獅郎の看病してくれた。
でも、どんなに頭を冷やしてもすぐには熱は下がらないし、苦い薬だって我慢して飲んだのに、咳もとまらない。

一護に会えない。
一護とケーキが食べれない。
一護にプレゼントをあげれない。
一護と遊べない。

布団にもぐりながら、ずっと一護のことばかりが頭をぐるぐる回る。
みんなは一護と遊んで、プレゼント交換したりして楽しく過ごしているのに、自分は熱を出して、ケーキどころか桃の缶詰しかもらえない有様。

けほけほと咳をしながら、小さな手で布団のはしっこを掴み、もう一度布団に潜る。
どうしても一護に絵を渡したい。
なんとかして幼稚園に行きたい。
でもママが、しっかり見張っているから、抜け出すことも出来なそうだった。
しばらく布団をかぶってじっとしていたが、冬獅郎が何かを閃きパッと布団をめくった。

(そうだ!ママがトイレ行ってるときに幼稚園いけばいいんだ!)

冬獅郎の脱出計画だ。
そーっとそーっとパジャマを脱いで、寒いのを我慢して洋服に着替える。
熱でくらくらして、座り込んでしまいたかったけど、一護に会いたくて仕方がなかった。
パジャマを隠して、洋服のまま布団に戻り、じっと寝たふりをして、ママがトイレに行くのを待つ。

しばらくすると、『寒いわねー』といいながらママがトイレへ入った。
パタンとトイレのドアが閉まる音がした。

(やったぁ)

冬獅郎は直ぐさま起き上がり、とてとてと走ってバッグの横に置かれていた一護にあげる絵を持って、部屋の外へ出た。
上着はママが冬獅郎の手の届かない、高いところにかけたので着ることが出来なかった。
寒いけど我慢することにした。

そっと玄関をあけて表へ出る。
冬獅郎が思っていたよりずっと寒かった。
空は晴れているが、風が少し強くて、首や、半ズボンの足が冷たくなってしまい、一瞬、家へ戻ろうかとも思ったが、それより一護に会いたいという思いが勝った。

風は容赦なく小さな冬獅郎の体に吹き付ける。
必死に寒さに耐えながら、冬獅郎は絵を飛ばされないように、しっかりぎゅっと握りしめ歩き出した。
いつもは家の近所まで、幼稚園のバスが迎えにくるので、実は幼稚園までの道を冬獅郎は知らない…ことを冬獅郎は知らなかった。

『あれぇ…?』

しばらく歩き、やっとどうやったら幼稚園に行けるのか分からないことに気付く。

『あ……』

でも、ここまで来たのだから(100メートルくらい)一護に会いに行かなきゃと、
頑張ってもう一度歩き出す冬獅郎。

だが、もう一つ冬獅郎が気がついていないことがあった。
今日、幼稚園では午前中のクリスマスパーティだけで、お昼過ぎにはみんな家へ帰るということ。
もうお昼の時間はとっくに過ぎていたし、冬獅郎も昼ごはんに桃缶を食べた。
そんなことには全く気づかず、黙々と歩く冬獅郎。

ふらふら よたよた ふらふら よたよた

『さむぃ……』

早速べそをかき始める冬獅郎。

『ふぇ…』

立ち止まって周りを見渡すと、冬獅郎にはなんだかよく分からない場所だった。
大人から見れば家からここまで、角を2つ程曲がったくらいなのだが、普段あまり外で友達と遊んだりすることのない冬獅郎にはものすごい冒険だった。

『ここどこ…?』

だが、歩みを止めて周りを見渡したことで、急に不安になってきた。

『いちごぉ…』

小さく一護の名前を呼んでみる。

その小さな声に反応したのか、近くで犬が大きく吠える。
その鳴き声に、冬獅郎ははびくっとして座り込んでしまった。
熱のせいで、足下がふらついていたので、座り込んでしまうともう立つ気力もなかった。
ブロック塀に寄りかかり、膝を抱えてうずくまる。
熱が上がってきているようで、冬獅郎の顔は真っ赤だった。
それに息もとても苦しくなってきた。
はぁはぁと浅い息を繰り返しながら、一護の名前を呼び続ける。

『い…ちごぉ…いちごぉ…ふぇぇ…』

とうとうぐすぐすと泣き出してしまった冬獅郎。
ぽろぽろ涙があふれてくる。
鼻水も止まらない。
一護に渡そうと思って持ってきた絵も、寒さや不安で何度も握りしめてしまたせいで、くしゃくしゃになっていた。
その絵を更に握りしめ、立つことも出来ずひたすら寒さに耐えている冬獅郎はだんだん頭がぼうっとしてきて、目が半分閉じてきてしまう。

その時だった。

『冬獅郎!!!!!』

突然聞き慣れた声が冬獅郎の頭の上から降ってきた。

『!』
『何やってんだお前!』

涙と鼻水でぐちゃぐちゃの、熱でぼうっとした顔をあげると、びっくりしたような怒ったような一護がすごい勢いで冬獅郎の元に走ってきた。

『いちごぉ!』

声を振り絞って一護の名を呼び、必死に立ち上がろうとしたが、ふらふらして前につんのめってしまった。
べしゃっと倒れてしまった冬獅郎。

『あ!おい!冬獅郎!』

すぐに一護は冬獅郎を抱き上げた。
一見して、熱が相当上がっているのがわかる。
それに、冬獅郎の母親は近くにいないし、上着は着ていないし、小さな体はすっかり冷えきっていた。

『何やってんだこんなとこで!お前今日風邪で休みだって言ってただろ?それにこんな薄着でなんだって外ふらふらしてんだよ!』

あまり大声にならないように、一護は困ったように叱りつけた。
腕の中の子供は、一護の上着を弱々しくつかんで、更に弱々しい声でささやくように言った。

『ようちえん…いこうと…おもって…』

しゃくりあげながらなんとか状況を説明しようとする冬獅郎。

『幼稚園って……今日はもうみんな帰ったぞ?クリスマスパーティも終わったし、
オレも今から帰ってお前んちにお見舞い行こうって…』

そう言って、冬獅郎の好物ばかりが詰まっている買い物袋を見せた。

『…でも…』
『でも?なんだ?』

聞き返した一護は、冬獅郎の手に握られているものに気がついた。

『冬獅郎?それ…なに持ってんだ?』
『え…』
『え?』
『いちごに…あげるえ』
『オレに?』
『くりすますだから…』

だんだん小さくなっていく冬獅郎の声。
もう、体力は限界らしくしゃべるのも辛そうだった。

『あ…ちょ…おい冬獅郎!』

一護の腕も中で苦しそうに息をしている。
咳も痛そうだったし、熱もだいぶ高い。

『と…とにかく帰ろう!』

自分のマフラーを冬獅郎の体ににぐるぐる巻きつけてやり、急ぎ足で冬獅郎の家へ一護は走った。
玄関をノックもせずに開けると、洗濯物を抱えた冬獅郎の母親が、びっくりしたような顔で一護を見た。

『あらやだ!一護先生!ちょっと!冬獅郎!ドコ行ってたの!』

ママは冬獅郎が、すっかり眠っていると思い込んでいて、そっと脱出したことに気づいていなかったのだ。

『なんか…冬獅郎、幼稚園に来ようとしてたみたいで…』
『え?この子ったら…幼稚園までの道知らないのに!どうやって…』
『えぇ!…だからあんな変なとこ歩いてたのか……』

冬獅郎がが歩いてたのは、微妙に幼稚園へ向かう方向とは違っていた。
バスで幼稚園に行くときは、窓の外なんて見ないから道なんて知ってるはずもない。
スーパーで冬獅郎のお見舞いを買ってきた帰りに見つけたのだから、なんだかおかしいとは思ったが、そういうことだったのか…と一護はため息をついた。
しかし、ぼけっとしている暇はない、腕も中の小さな体はとんでもなく熱くなっている。

『と…とにかく!冬獅郎すっげえ熱あるから寝かせないと!』

急いで冬獅郎を部屋に連れて行き、布団へ押し込む。
薬を嫌がるのを、なんとかなだめながら飲ませ、おでこに冷えピタを貼ってやる。
先ほどよりは少しだけ落ち着いた様子の冬獅郎。
出ていた手を布団にしまってやりながら、一護は冬獅郎の横に座って聞いてみた。

『ふぅ…全くお前なんでこんなことしたんだ?こんなんじゃ風邪も治んないぞ?』
『……だって…』

一護に会いたかったから。
一護にプレゼント渡したかったから。
一護がみんなとあそんでるのがくやしかったから。
一護と、
一護に、
一護が……。

『ふぇぇっぇ……』
『冬獅郎!どうした?なんだよ、なに泣いてんだよ!』

言葉も出ずに泣き出してしまった冬獅郎に、一護は驚いて今度は優しく問いかけてみた。

『うぇ…』
『…どうしたんだ?』
『いち…ごにあれあげたかった』
『ん?あれ?』

冬獅郎の目線の先には、ぎゅっと握りしめすぎたせいでくしゃくしゃになり、転んだりしたために汚れてしまって、リボンが解けかけた絵があった。
冬獅郎が描いた一護の絵。

そっとリボンをはずし、絵を広げてみた一護。
しばらく眺めてから、じっと一護を伺っている冬獅郎に視線をうつした。

『お前が描いたのか?』
『うん』
『はは!じょーずだな!』

ぶっちゃけ、何が描いてあるのかよくわからない。
きっと冬獅郎の母親ですら、何が描かれているのかはわからないだろう。
でも一護には何が描いてあるのか、ちゃんと分かる。

『オレこんなに太ってねぇぞ?』

笑いながらも、一護はちょっと眉を寄せて、画用紙の中に描かれている自分の絵に
不満を言ってみた。
もぞもぞと冬獅郎が布団の中で動いた。
そして小さい手が出てきて、一護の服をきゅっと掴んだ。

『くりすますパーティしたい…』

熱で潤んだ目で一護を見上げて、少し甘えるような声で冬獅郎が言った。

『ん?あぁ…お前出来なかったもんな…じゃあ…風邪が治ったらやろっか!早く治さなきゃだめだぞ?』

一護は冬獅郎の頬をそっと撫でながら言うと、

『あしたやる』

なんて、高熱を出している子供が無理なことを言い出した。

『おいおい…さすがに無理だろ?』
『大丈夫だもん』
『明日お前が治ってたらな?すこしでも熱あったらだめだぞ?』
『なおる!』

せいいっぱい力を振り絞って叫ぶ冬獅郎。
そんなぷっくりと頬を膨らませている冬獅郎の小さい手を、ぎゅうっと握って『頑張ってなおそうな?』と一護は笑いかけてやった。
こくんと頷く冬獅郎。

こんな風邪で外を歩き回って、すっかり疲れてしまったのか、薬が効いてきたのか
冬獅郎の目がとろんとしてきて、まぶたが閉じられる。
すぐに小さな寝息が聞こえてきた。

しばらく一護は冬獅郎の手を握っていたが、冷えてしまってはいけないと、小さくて柔らかな手を布団へしまってやる。

そのまま音を立てずに立ち上がり、そっと冬獅郎が起きないようにベッドから離れ、部屋を出た。
冬獅郎が一生懸命描いてくれた絵を持って。

冬獅郎の夕食に、おかゆを作っている母親に声をかけ、帰る旨を伝える。

『また明日様子見にきます』
『すみません…あの子ご迷惑を…』
『いいえ、それじゃあいつ起きないうちにオレ帰ります』

玄関のドアもそっと閉め、冬獅郎の家を出た一護は、あることを思い出した。

『あ…あいつにプレゼントやるの忘れちまった…』

コートのポケットに入れっぱなしの、冬獅郎へのプレゼント。
あの子はお絵描きすると、いつもいつも一護の絵をを描くから、冬獅郎のクレヨンのオレンジ色と肌色はとても小さくなってしまっていて、すごく描きにくそうだったから、文房具屋さんでオレンジと肌色のクレヨンを個別に買って、きれいに包装してもらっていたのだ。

『今度二人でパーティしたときにあげるか…』

一護は手に持っていた冬獅郎が描いてくれた絵をも宇一度開いた。

(もう…クレヨン使い切ったんじゃねーか?あいつ…)

ちっちゃくなってしまったクレヨンで一生懸命描いてくれた一護の絵。
家のどこに飾ろうか…。
いつも見れる場所に貼ろう。
カレンダーの横?
玄関の内側?
それともいっそ天井に貼ろうか…。

そんなことを考えて楽しそうに自宅へと向かう一護だった。

だが、しっかり冬獅郎の風邪をもらってしまい、2日後にひどい風邪を発病してしまうのはまだ本人は気づかない。

2日後に気合いと根性で風邪を治した冬獅郎が、一護が幼稚園に来ないのを知って
『帰る!』とわめきだすのもまだ知らない。

結局一護と冬獅郎が、二人でクリスマスパーティが出来るのは1週間後のことだった。

 

 

幼児萌え………。