『雪うさぎ1』(一護、中学生。冬獅郎、園児)

2月に入ってから一段と気温は下がり、寒い日が続いていた。
あんまりにも寒いので、部屋を暖房でガンガンに暖め、夕方は冬獅郎とテレビゲームで遊んだ。
そろそろ飽きてきた頃、ふと外を見た冬獅郎が、大きな声を上げた。

『わぁ!ゆきだ!!』
『おぉー…ほんとだすっげー降ってんなー…積もんのかなこれ?』
『なーいちご!つもったら雪だるまつくれる?』
『あー…そうだなもっともっと降ったらな』

冬獅郎の声にオレも窓の外を見ると、本当に雪が降り始めていた。
しかも、ちらほら降っている訳ではなく、割と大きな雪がしんしんと降っている。
冬獅郎はコントローラーを投出し、窓の方へ走って行った。
初めて見る訳でもないだろうに、雪を見てはしゃいでる冬獅郎。
なんだか、そんな姿を見ているだけでオレまで嬉しくなる。
ちっちゃい手を窓にぺたんと付けて、食い入るように外を見ている冬獅郎の瞳はキラキラしていて、いつも以上にキレイに見えた。
そっと、冬獅郎の後ろに寄り添い、空を見上げながらオレはつぶやく。

『明日起きたら積もってるといいな』
『うん!』

下に視線を移すと、うっすら庭に雪が積もっている。
このままの寒さが続けば、明日には多少積もるだろう。
今にも外へ遊びに行くと言い出しそうな冬獅郎に、早く晩飯を食わせて寝かせないと。
オレは顔を冬獅郎の耳に近づけた。

『冬獅郎!ほら飯食うぞー』
『……うん』

生返事が返ってくる。
相変わらず大きな目を見開いて、外を眺めたままだ。
オレは後ろから冬獅郎の小さな身体を抱き上げ、夕食の準備の整ったダイニングテーブルへ連れて行った。

『うぁ…!もっと見たいよぉ!』
『明日になったらもっともーっと積もってるんだぞ?それまでのお楽しみだろ?』
『だってぇ…』

足をジタバタさせて降りようとする冬獅郎を、オレはしっかり抱え直す。
ダイニングの椅子に座らせ、頬をぷっくりにさせた子供に言い聞かせる。

『それより早く寝て、明日早起きしないとな?たくさん遊べねぇぞ?何しろお前はお寝坊さんだからな』
『オレおねぼうじゃないもん!』
『よし!じゃあ早く起きような』
『おう!』

からかうように言ってやると、すぐに喰ってかかってくるところがまた可愛い。
だが、頭を撫でてにっこり笑いかけてやると、やっと食事に興味を示してくれた。元気に返事をし、プラスチックのフォークと素手を使ってパスタを食べ始める冬獅郎。
食べ始めさえすれば夢中になってくれるから助かるのだが、夢中になりすぎているのか、食器を使う気がないのか、フォークでパスタを持ち上げて、手で口に運んでいる。
いつになったら汚さず食べられるようになるのか…とため息が出てしまう。
食事中何度も何度も冬獅郎の口の周りと手を拭いてやりながら、オレもなんとか腹を満たした。

飯を食い終わった冬獅郎は、直ぐさま椅子から飛び降りて窓へむかう。
さっきオレが閉めたカーテンを、悪戦苦闘しながら半分ほどあけ、外を覗き込む。
どうやらまだまだ降っているようだ。

『あ!いちご!つもった!つもったよぉ』
『お?どれどれ』

興奮した冬獅郎の声に呼ばれ、庭を覗くと、3センチ程だろうか…、確かに雪が積もっていた。

『でもまだまだだな。雪だるま作るんなら、もっとたくさん雪が必要だぞ?』
『えー…どんくらいだよ!』
『冬獅郎、あの庭の花壇あるだろ?あれが見えなくなるくらいだな』
『あれが?』
『そう、だから、今日は早く寝て、きっと冬獅郎が寝てる間にうーんと積もるから』
『そっか…わかった』
『じゃあ、風呂はいろ?』
『うん』

いつもはなかなか言うことを聞かず、風呂に入れるのも一苦労なのだが、今日は早く明日になってほしいのか、素直に頭も洗わせてくれたし、ちゃんと肩まで浸かって10数えた。
毎日こうなら大助かりなのだが。

冬獅郎は風呂から上がるとさっさと自分のベッドへ行って、布団に潜り込んだ。
風呂上がりのジュースも欲しがらず、冷たい布団に文句も言わなかった。
相当明日の朝が楽しみなようだ。

『寒くないか?』
『うん。いちごはねないのか?』
『オレはまだいいよ、読みたい本あるし。』
『ふー…ん。いちご、あしたねぼうするなよ!』

小さい眉を寄せ、心底不安そうにオレの寝坊の心配をしてくれた。
そんな姿があんまりにも可愛いもんだから、思わず抱き寄せて頬ずりしてから、ほっぺにキスをした。
冬獅郎はくすぐったがりながらも、嬉しそうに笑った。
きちんと首もとまで布団をかけてやりながら、安心させるようにオレは約束をした。

『大丈夫だよ。もう少ししたらオレも寝るから。な?』
『ちゃんとだぞ!』
『ああ、おやすみ』
『おやふみぃ』

それを聞いて安心したのか、布団があったまったのか、冬獅郎の瞼が徐々に閉じて行く。
おやすみ、の語尾が伸びた…と思った時にはもう冬獅郎は夢の中のようだった。
可愛らしい寝顔をしばらく堪能したオレは、リビングへ降りて読みかけの本を読むことにする。
来週には友達に返さなければならない本で、なかなか面白いミステリーだ。
風呂に入ったにも関わらず、もう冷え始めた体を温めるため、コーヒーを入れながら時計を見れば、まだ20時過ぎたばかりだ。

学校へ行っている以外はほとんど冬獅郎の世話に追われているオレは、この時間からが唯一の自分の時間。
友人からはよく『大変だなお前。弟の世話ばっかりで…』なんて言われるが、冬獅郎の世話は全く苦にならないし、あの笑顔が見れるのだったらオレは何でも出来そうな気さえする。

一年前にうちに養子に来た頃は、本当に人見知りで、隅っこでぐずっているか、いつの間にかいなくなったりして、周りをずいぶん心配させてくれた。
オレも、オレの家族も必死になって慣れてもらおうとしたが、なかなか打解けてくれず、普通に一緒に飯を食えるようになるまで2ヶ月程かかった。
しばらくすると、オレにはだいぶ懐いてくれたようだった。
今でもオレ以外には少々警戒しているようで、おやつを作ってくれたり、優しく話しかけてくれる遊子には多少慣れたが、夏梨やオヤジにはまだ警戒心が取れないようだ。
なんでこんなにオレになついてくれたのかはわからないが…。

ふと気になって外を見ると、相変わらず雪は降り続いていて、このままいけば明日にはとても大きな雪だるまを冬獅郎に作ってやることが出来るだろう。
どんな顔をして喜んでくれるだろうかと思うと、少しわくわくしてきた。
本を開いたまま、窓の外を見ながらニヤついているオレに、夏梨が冷たい視線を送ってきた。

『いちにい…なに笑ってんのさ…気持ち悪いなー』
『あ?なんだよ笑ってねーって』
『やらしーことでも考えてたんじゃないの?全くこれだから男子中学生は…』
『うっせーな!生意気な口聞きやがって…』
『ね、おにいちゃん。明日みんなで雪合戦やろうよ!』
『いいけど…?なんで?』
『みんなで遊んだら冬獅郎君ももっと仲良くなれるよ!きっとそうだよ』
『そ…っか。そだな』

遊子が提案してきた雪合戦。
こんな小さな庭でも、多少は楽しめるだろう。
明日は朝から雪だるまつくって、それからみんなで雪合戦して…。
どうやら、とても忙しい一日になりそうだ。

たくさんたくさん遊んでやろう。
冬獅郎が、もっとオレの家族と打解けてくれるように。

もう一度窓の外に視線を移す。
雪はまだ降り続いている。

どうかやまないでくれよ…と思いながら、オレは手元の本へ視線を落とした。